Episode:97
「幾万の過去から連なる深遠より、嘆きの涙汲み上げて凍れる時となせ――フロスティ・エンブランスっ!」
さすがにルーフェイアには負けっけど、威力十分で魔法が炸裂する。
竜の足元が凍り付いて、動きが止まった。
けど、止まったってだけだ。竜が何かを振り払うみたいに首を振ったあと、また口を開いた。
すかさずその口めがけて、抜いた長剣を投げる。
そして後ろから、ルーフェイアの呪文が聞こえた。
「遥かなる天より裁きの光、我が手に集いていかずちとなれ――ケラウノス・レイジっ!」
魔法がが発動して、雷撃が俺の剣に落ちる。
空気を震わす、竜の苦悶の咆哮。
「やったか?」
ダメージ与えたのは間違いねぇけど、なにせ竜だ。どこまで効いたか。
警戒する俺らの前で案の定、苦しそうに、けど憎しみ込めた目で、竜が一歩踏み出す。
「ほんのちょっとでいいから、抑えられる?」
「やらなきゃダメなんだろ」
まぁ相手は瀕死だ。こっちも死ぬ気でやりゃ、隙くらいは作れっだろう。
けど。
『――そこまでだ』
頭の中にいきなり声が響いて、影が落ちてきた。
最初の竜を半分押しつぶしそうになりながら、もう一頭の竜が俺らとの間に割って入る。
あとから来たこいつは、最初のより二回りはデカい。鱗もツヤこそ薄いけど、その分硬そうだ。
『この若造が出て行ったので、慌てて後を追ったが……返り討ちとはな』
「え?」
思わず間抜けな声がでる。
「出てったってもしかして、これって儀式と違ったりします?」
さすがにタメ口はきけなくて、一応改まってみた。
竜がごう、と息を吐いて、言う。
『違うと言えば違うな。メルヒオルには、このような殺し合いをしろとは頼まれていない』
要するに俺ら、余計な話に巻き込まれたっぽい。
『血の気の多いこの若造が、人に従うのは受け入れられんと飛び出してな。まぁ済まなかった』
「済まなかったって、俺らそれで死ぬとこだったんですけど……」
竜と人間とじゃ感覚違うんだろうけど、ひどすぎだ。手違いで死にましたじゃ、シャレにならねぇ。
けど相手が相手なだけに思い切って抗議できないのが、我ながら情けねぇとこだ。