Episode:96
竜のうめき声。
ルーフェイアんとこ行きながら視線をやると、魔法がほぼ予想通りに効いてた。実際にはかなり防御障壁で減衰されてっけど、それでも元がデカいから、効果がけっこう残ってる。
殿下はとっくに、退避させたんだろう。前に立つのは、ルーフェイアだけだ。
竜が口を開いた。けど、ルーフェイアのヤツが動かない。
――違う。
竜の視線がルーフェイアに絡み付いて、縛り上げてる。
その間へ俺は割り込んだ。視線を代わりに受け止めて、睨み返す。
古代の竜使いは、視線だけで竜を操ったって言う。だったら走竜で同じことが出来る俺は、操れないまでも対抗くらい出来るはずだ。
竜の瞳に怒りが浮かんだ。こんな形で破られるとは、思ってなかったんだろう。
ルーフェイアのほうは見ない。ンな事しなくてもこいつは、一番的確な行動を取る。
「エレメンタル・ブレスっ!」
思ったとおりルーフェイアが、得意の多重発動で最強の防御呪文を唱えた。
竜のほうは、口を開けて息を吸い込んでる。
「ルス・バレーっ!」
もう一つ防御魔法が発動すると同時に、竜のヤツが炎を吐いた。けど魔法のおかげで、なんとか耐え切る。
更に殿下の声。
「我が名はローウェル、竜騎士メルヒオルの血を継ぐ者なり。汝この竜玉の盟約に従い、我が物となれ!」
これが契約の言葉ってヤツだろう。竜が悔しそうに、天に向かって吼える。
「終わったか……?」
「殿下、ダメです。まだ離れててください」
近づいてきた殿下に、ルーフェイアのヤツが鋭く警告した。
「完全に竜が屈したとは、限りません」
俺も同感だ。
契約の言葉自体は、たぶん効いてる。そうじゃなきゃ、もう一度や二度は炎吐かれてるはずだ。
けどこの竜のヤツ、ものすごい怒り方だ。この調子じゃ、契約破って何かやらかしかねない。
重力魔法が消えてく。ヤツが動くなら、このタイミングだ。
「イマド!」
「分かってる!」
左右に散った間を、また炎が駆け抜けた。
「ったく、契約くらい守れよ」
悪態つきながら、前へ走る。隙作んねぇと、いくらルーフェイアでも攻めきれない。
「あなたたち、避けなさい!」
思いもしなかった方向から、イオニア先輩の声が聞こえた。
この騒ぎで、すっ飛んできたんだろう。なんやかや言いつつも、やっぱ上級隊だ。