Episode:94
◇Imad
「ここで待機。動くんじゃないわよ」
「了解」
俺の答えはろくすっぽ聞かねぇで、先輩が背向けた。
ミルとシーモアがこっち見て、ちらっと手振る。いちおう激励だろう。
――まぁ、ミルは分かんねぇけど。
あいつ頭もいいし記憶力も抜群なヤツだけど、思考回路は思いっきし異星人だ。
連中が行っちまうと、辺りが静まり返った。
このあとしばらくは、待機だろう。なんせあのミルとシーモア、それに先輩の3人が、順番に配置に着かなきゃなんねぇし。
突っ立ってんのもアレだから、定位置に印つけてその辺に座り込む。
ここ数日、けっこう複雑な心境、ってやつだ。しかも面倒なのは、誰も悪くねぇから白黒付けらんねぇってことだった。
殿下がルーフェイアのことを悪く思ってねぇのは、誰が見たって分かる。機会さえありゃ、かっ攫ってくだろう。
ってもルーフェイアのヤツは、そういうのはどっかに落としてきちまってるわけで。だからどこまで行っても、雇い主と雇われ人だ。
殿下がある意味気の毒な状態だけど、まぁこればっかはしゃーない。
そして俺がどうにもイラついてるのは……自分のほうだ。
ここへ来るまでの間に、殿下に言われた。「お前はルーフェイアに、何が出来るのか?」と。
実言うとそれは、俺もここ来てから、ずっと考えてた。
殿下と違って俺は、金どころか家も親もない。あんなふうに地位があるわけでも、権力があるわけでもない。
俺が出来ないことなんて山ほどあるけど、そのほとんどは、殿下ならどうにでもなるだろう。
つか考えてみりゃ、ルーフェイアだってそうだ。
家はあのとおり財閥クラスで、あっちこっちにコネもある。あいつが欲しいって一言言や、手に入らないもののほうが少ないはずだ。
事情が事情だから仕方なくシエラに来てるだけで、あいつが望みゃ、どんな贅沢だって出来る。
そういう連中相手に、俺が何できるかって言われて考えて――腹立つほど、なんもなかった。
さすがにため息が出る。
シエラにいる限りはそれなりにやれっだろうけど、その先はどうにも見えねぇ。俺が出来そうな範囲で考え付くのは、卒業して大学行くか、どっかの軍に就職するか、せいぜいそのくらいだ。
んで、方やあと数年で、シュマーの総領。差がありすぎる。
その中で、俺に出来ること……。
『ミルはここで待機。あとは私が配置につけば終わりね』
珍しく悩んでる俺にゃ関係なく、通話石から先輩の声が聞こえる。もうそろそろ全員配置につくらしい。