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Episode:93

「確かお前が魔法、僕が召喚と契約の言葉だったな」

「はい」

 確認してきた殿下を、ちょっとだけ頼もしく思う。以前はこんなじゃなかった。


 極限状態で事態を動かすのは、冷静さと意思の力だ。この2つが揃うと、圧倒的な劣勢さえ跳ね返すことがある。

 今の殿下には、それがあった。だからきっと、やれるだろう。


 なんとなく深呼吸して意識を澄ましたところで、先輩から連絡が入った。

「ルーフェイア、応答して。こちらは全員、配置についたわ」

「了解、こちらも配置につきます」

 答えて、殿下に声をかける。


「殿下、出ましょう」

「分かった」

 けど抜き身の太刀を手に前へ出た瞬間、目の前、何もないはずの場所が陽炎のように揺らめきだす。


「なんだ?!」

 それに答えるより早く、陽炎が実体を持った。


 ――竜。


 見上げるほどの高さのそれが、雷鳴のような咆哮を上げる。

 ここに最初から居たのか。それともどこかから魔法で移動してきたのか。どちらにしても、殺気を放っているのは間違いない。


「殿下、逃げてください!」

 一瞬の間。そして、思いもかけない答えが返ってきた。

「ルーフェイア、僕を守れ! その間に、契約の言葉を言う!」

 殿下の言葉に、揺るぎない意思を感じる。


「了解、では横方向へ退避を!」

 言いながら目くらましの魔法を放ち、通話石の方にも伝えた。

「先輩、竜です。すぐ魔法を!」

 そしてあたしも唱える。足止めをするなら、大きく出たほうがいい。


「万物に宿りし力よ、すべてここに集いて形無きくびきとなれ――シュヴェア=ブロカーデ!」

 ほぼ同時に、同じ魔法が6つ発動した。全員分だ。

 苦悶の声を上げながら、竜が首を落とし腹ばいになる。増幅された自分の重さに、耐えかねたんだろう。


 けど、その瞳に剣呑な光が宿る。

 危険を感じ取って、先手を打とうとして……動けなかった。


 しまった、と思う。

 あまり成功しないから忘れられているけど、魔法の中には「行動を制限する」タイプのものがある。

 それが、かけられていた。


 翠の竜の目から、視線が外せない。指どころか、声ひとつ出せない。

 竜の口がゆっくりと開いていく。

 けどブレスの直撃を覚悟した瞬間、誰かの背中で視線が遮られた。

 身体の自由が戻る。考えるより早く、呪文が口を突く。


「エレメンタル・ブレスっ!」

 得意の多重発動。それを殿下と、自分と――もうひとり。


 更に唱える。

「ルス・バレーっ!」

 防御魔法をもうひとつ発動させたところで炎が周囲をなぎ払ったけど、どうにか耐え切った。

 そして少し遠くから、朗々と響く殿下の声。


「我が名はローウェル、竜騎士メルヒオルの血を継ぐ者なり。汝この竜玉の盟約に従い、我が物となれ!」

 契約の言葉が、竜に放たれた。





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