Episode:09
「ちゃんと護衛、いるんでしょ? なのにどうして、あたしたちみたいな見習いが、護衛になっちゃうの?」
それを言うと、殿下ったら苦笑した。
「これも儀式のスタイルでな。故事に則って、同年代数名で行く決まりだ」
なんかよくわかんないけど、伝統ってだけあって、やっぱりいろいろ面倒みたい。
殿下がさらに続ける。
「じつを言えば今までは、有力貴族の師弟で編成していたのだがな、いつも終わった後に泥沼の権力争いに発展する。
だから今回思い切って、外部に委託することにした」
この話聞いてちょっと殿下が、気の毒になったかも。
ただ前例のないことする気になったのは、ルーフェも理由のひとつだろうなぁ、なんて思ったり。なにしろ殿下、ルーフェにはすっごく甘いもん。
「でも殿下、ホントにだいじょぶなのかい?」
ちょっと斜な感じで、でも真剣に聞いてたシーモアが、尋ねた。
「今まであの貴族連中から人出してたのを、急にあたしらみたいな部外者にしたら、もっと問題になると思うんだけどね」
「それは承知の上だ。だがすべてを勘案した上で、この方がいいと僕は判断した」
きっぱり言い切る殿下、けっこう覚悟はありそう。まぁ今まで前例のないことしようっていうんだから、このくらいの覚悟は要るのかも。
こんなわずらわしい事がたくさんあるなんて、王族なんかに生まれたの、やっぱりちょっと可哀想かな?と思ったり。
そこへ今まで黙ってたイマドが、口を開いた。
「……ホントにそんだけです?」
いいかげんオンリーの彼にしては、すっごく鋭い視線。
「それだけ、とは何だ?」
返した殿下も、どこか怖い表情。2人の間で火花でも散りそう。
――そりゃそうよね。
今回の話が学院へ来たのは、どう考えたって殿下が、ルーフェを連れ出したかったから。なのにルーフェったら、そういうの分かんない子なわけで。
呼び出して仲良く楽しめると思ったら、その彼女が一緒に男連れてきたとか……魔視鏡の番組だったら、どろどろの修羅場モノ。
まぁあたしは、そういうのけっこう好きだけど。見てる分には面白いし。
けどイマド、別にやりあう気はなかったみたい。ふいっと視線をそらして、天井仰いで。
「んー、そんなら別にいいです。どうしてもだったら、また訊くんで。
てか、俺の勘ぐり過ぎかもしんねぇし」
なんか謎めいたことだけ言って。
気になったみたいで、隣のルーフェも教えて欲しそうに見上げたけど、それも頭撫でられてうやむやにされちゃった。
「にしても、なんだってこんな時期なんです?」
イマドが話を変えて。
「もちっとあったかい時期に、行きゃぁいいのに。オロス山の辺り、いい加減寒くなってません? もうそろそろ、霜降りた気が」
「僕も来年の夏と思っていたのだがな、祖父が倒れて事態が変わった」
あっさり言われて最初はふーんと思ったけど、意味が分かった瞬間、あっと思う。
「そ、祖父って……殿下のお爺さんって、ここの王様でしょ?!」
「ああ。幸い大事には至らなくて、もう普通にしてるが。
ただいい加減、歳だからな。継承順位を固めておかないと、何があるか分からん」
淡々と言う殿下。でも内容が……。
「ホントにお爺さん、大丈夫なの?」
「心配してくれるのか? お爺さまに言ったら、さぞ喜ぶだろうな」
殿下がどうしてか、嬉しそうに笑う。
もしかしたら、こういう貴族とかの人たち、誰も本当には心配してくれないのかも。そんな風に思った。
それからあたしたちを、殿下が見回して。
「出発は明後日の早朝だ。だから明日はお前たち、観光でもしてくるといい。費用はこちらで出す。
ただしトラブルと、無駄遣いは無用だぞ」
「はーい」
最後に殿下が茶化して、その日は解散になったの。