Episode:85
「で、あなた死ぬほどやったかしら? そうじゃないなら、やっぱり『足りない』わよね」
「――ごめんなさい」
なんか分かんないけど、思わずルーフェみたいに謝っちゃったり。確かにあたし、そこまではやってないもの。
先輩がまた笑った。
「やるのはあなた。諦めるのもあなた。文句を言うのも落ち込むのも自由だけど、やらずに言うのはただの馬鹿よ」
「……ですね」
この先輩が意外と人気あるの、なんか分かったかも。
ってもイオニア先輩、違う意味でも人気があるから困り者?
「まぁ、面倒だから最初から諦めるっていうのも、悪くは無いわ。ある意味賢い選択ね。ただその場合、文句を言うのだけは筋違い。そういう子は嫌いよ」
好き嫌いは関係ないような気がするけど、言ってることは今度は分かったり。
――そうだよね。
ぐちゃぐちゃ考えてるより、トコトンやってみるか、最初からすぱっと諦めて別のことするか。それしかないもの。
ちょっとだけ納得したあたしを、先輩ったら満足そうに見て。
「分かったところで急ぎなさい。さっさと食べて、出発するわよ」
傲然と言い放つ。
もっともルーフェ以外はほとんど食べ終わってたから、そんなに焦る必要ないんだけど。
「ほら子猫ちゃん、急がないと日が暮れてよ?」
「す、すみません!」
みんなが片づけする中、ルーフェだけが慌てて食べてる。
「まったくあなた、急げとは言ったけど、喉を詰まらせろとは言ってないわよ? 口に詰め込むもんじゃないわ」
先輩、いじめてるんだか世話焼いてるんだか。
それでもじきルーフェも食べ終わって、後始末して立ち上がる。
「行くわよ。モタモタして、暗くなったらたまらないわ。置き去りにされたくなかったら、付いてらっしゃい」
そんなこと言ってるけど先輩、実は置いてく気はないんじゃないかな……なんて、ちょっと思った。
だってイオニア先輩タカビーだけど、見るとこ見てる感じだもん。
今度は先頭行く先輩の背中見ながら、安心して歩いてく。
先輩の隣はルーフェ。警戒には適してるから、まぁ妥当。
すぐ後ろが、何故かミル。きゃぁきゃぁ先輩に話しかけてるとこ見ると、要するに一緒に居たいだけかも。
で、その後ろがまずいことに、殿下とイマドになっちゃって。
(シーモア、イマドに後ろ頼む?)
(だねぇ。これじゃ何が起こるかわかりゃしないよ)
思わず2人で、小声でそんな相談しちゃったり。