Episode:84
そのまましばらくルーフェたち、厳しい顔で空を見てたけど、そのうち警戒解いた。
こんどはあたしにも、ちょっとだけ空の空気が緩んだの、分かったかも。
「行ったわね。様子見かしら?」
「たぶん、そうかと……」
あたしもそうかな、って思う。だってもし向こうが本気なら、これじゃ済まないもの。
そして……気づいた。
「もしかして、見張られてる?!」
自分で言いながら、背筋が冷たくなったの。
「これじゃ不意打ち、出来ないじゃない!」
「そうでもねぇだろ。こっちの手の内、晒してるわけじゃねーし」
イマドに指摘されて、少しあたし落ち着いたかも。
「そっか……。でも来てるのは、バレちゃってるってことだよね」
何でだかわかんないけど、あたし竜が気づいてないって思い込んでたから、ちょっとショック。
けど先輩やルーフェ、そうじゃなかったみたい。
「あなた、子猫ちゃんの報告聞いたでしょう? 今のは二度目。だとするなら、前回の時から儀式でうろうろしてるのなんて、向こうには筒抜け。今頃驚くなんて、少し頭が足りないんじゃないの?」
「そりゃあたし、足りないですけど……」
なんかすっごい、ぐさっと来たかも。だってあたし、ルーフェやイマドやシーモアみたいに、頭良くないんだもの。
頑張ってないわけじゃないんだけど、もう頭の構造違うんじゃない?ってくらい、みんな出来るし。
「……あら、本気にしちゃった? あぁそんな顔しないでちょうだい、妹が泣くのは耐えられないわ」
言って先輩手を伸ばして、あたしのおでこをちょんと突付いて。
「いいこと? 人なんてね、差があって当たり前なの。問題は、差があるのを承知で何をどうするか、じゃなくて?」
ちょっと意味がわかんなくて、首かしげてたら、先輩が少し笑ったの。
「むつかしかったかしら?」
あごに手を当てた先輩が、あたしを見下ろして。ちょっと女王様っぽいけど、でも嫌な感じじゃないかも。
「要するにね、あなたはあなたで、子猫ちゃんじゃない。これは分かるわね」
「あ、はい」
それなら分かる。だってあたし、ルーフェじゃないもの。
「だったら、違って当たり前。双子だって別人なのに、他人じゃなおさら違って当然だわ」
「ですけど……」
違うのは分かるけど、あたし、違うから悩んでるわけで。やっぱりあのくらい、いい成績取ってみたいもの。
「だから、いいのよ、ダメならダメで。そりゃ最初から放棄する子は、私だってイヤよ? でも死ぬほどやってなおダメなら、仕方ないでしょ」
そして先輩、なんとも言えない笑みを見せながら、またあたしの額つつく。