Episode:80
「あなたたちの言ってた洞窟って、この辺かしら?」
「そですね。こっからほんのちょっと東行くと、ありますよ」
先輩の言葉に、イマドが答えて。
「行ってみます?」
「冗談じゃないわ。例の死体が腐ってたら、身体に臭いが付くじゃない」
なんかちょっと違う理由で、先輩が却下する。
「あとどのくらい、かかります?」
地図見てる先輩に、訊いてみたり。
「あら、言ったはずよ? 聞いてないなら減点だわね」
「え、先輩そんな!」
あたしがびっくりして言ったら、先輩嬉しそうに笑うの。ほんとにイジワル。
「まぁいいわ、今回だけは大目に見てあげる」
言って、不思議な色の髪をかきあげて。
「このペースだと、やっぱり着くのは夕方でしょうね。もう少し早く着ければと思ったけど、殿下が慣れてないのだもの、こればっかりは仕方ないわ」
ちらっと殿下見てみたら、やっぱりちょっとおかんむり? でも何も言わないとこみると、そんなには気にしてないのかも。
「んじゃ、やっぱり直前で一泊して、明日の朝からか」
シーモアが独り言みたいに言う。
「夜間に挑みたいなら、別に止めないわよ? 手伝いもしないけど」
「言ってないじゃないですか」
なんかもう、ずーっとこんな感じで、ペース狂いっぱなしかも。
というか先輩こんなでよく、上級隊の仕事勤まるなぁ……。
「それにしてもお前たち、物好きだな」
殿下が急に、ポツリと言って。
「あら、物好きだなんて心外でしてよ。私たち、殿下の依頼で来てるんですから」
「それは分かっている。だが、最初から受けないという選択肢もあっただろう?」
確かに殿下の言うとおり。もしイオニア先輩が、竜を倒す方法なんて検討しださなかったら、この話は出なかったはずだもの。
けど先輩、なんとも言えない表情で笑って。
「歴史って、なかなか見られるものじゃありませんから。ましてや、アヴァンの公爵家なんて」
「なるほどな」
なんかため息つきたくなったり。
要するに先輩、好奇心ってこと。
そりゃまぁ、こういうのってあたしもちょっと、興味はあるけど。でも、命賭けてまで見に行こうっては、あんまり思わない。
――この中じゃ、あたしだけっぽいけど。
シーモアも冒険好きだし、ルーフェは歴史好きなうえに危険ナシ。ミルはもう張本人だし、イオニア先輩は仕掛けてるし。
イマドはめんどくさがりだから、本音はどうでもいいんだろうけど……ルーフェが動く以上は、ついてかないわけないし。
でももし、失敗しちゃったらどうしよう……。
あたし小心者だから、そんなこと考えちゃう。