Episode:08
「仕方あるまい、伝統というのはそういうものだ。
ともかくその伝統に則って、聖なるオロス山に入り、竜を倒した証を持って帰る。お前たちは、その補佐をしろ」
「――竜を倒す?」
先輩の声に、剣呑な響きが混ざった。
「そんなものを相手に、この子達で戦力になるとでも? いくらなんでも話と違いすぎるわ」
「あぁ、心配するな」
殿下がめんどくさそうに、手をひらひら振った。もしかするとこの儀式、殿下もあんまりやりたくないって、思ってるのかも。
「証にする竜の骨は、最初から用意してある。だから行って数日逗留して、持って帰ればいいだけだ」
「ちょっと殿下、それって詐欺……」
思わずあたしが言っちゃった言葉に、みんなはもちろん、殿下までうなずいて。
けどこれで、人払いした理由が分かったかも。うっかり喋って、広まったら大変なことになっちゃう。
こんなにあっさり言うからには、きっと代々詐欺な儀式してたんだろうし。
「まぁ実質そうだが、さっきも言ったように、伝統とはそういうものだ。形さえ整っていれば問題はない。
だいいち継承者が、無限にいるわけではないからな。そんなに次々と危険な目に遭わせては、誰もいなくなってしまう」
「いなくなっても、困らないでしょうに」
辛らつな言葉に、意外にも殿下ったら笑い出した。
「まったく、お前たちは逞しいな。孤児というだけある」
去年と似たような言葉。でも不思議なのは去年みたいな嫌味が、感じられないってこと。
「いずれにせよ、血筋と権力の後ろ盾は侮れんぞ? それをわざわざ捨てて国を危険に晒すのは、愚の骨頂だ」
話を聞きながら、思う。
――殿下ったら、かなり変わったかも?
前はただのヤなやつだったけど、いまはなんか、腹黒いヤツに進化した感じ。敵に回したら、すっごくてこずりそう。
でもって、その変わった理由は……そこで黙ってるルーフェだろうな、って思う。去年2人で誘拐されてから、殿下ってばちょっと違ったし。
「ともかく、内容はそういうことだ。
逗留に必要と思われるものはこちらで用意させたが、念のためにチェックを頼む。足りない物があったら、遠慮なく言ってくれ」
「ええ、では遠慮なく」
イオニア先輩がすっごく嬉しそうで、文句言われる係のひとたちに、ちょっと同情しちゃったり。
「他に、何か質問はあるか?」
「質問っていうか……ほんとにあたしたち、一緒に行って野営してればいいのよね?」
なんだかちょっとだけ腑に落ちなくて、訊いてみて。
「そうだが、不満か?」
「ううん、不満って言うんじゃなくてね」
自分でもイマイチ言いたいことがまとまらなくて、考え考えになる。
「なんていうのかな……行って帰ってくるだけなのに、あたしたちみたいの何人も呼ぶなんて、ちょっとヘンかなって」
行けばいいだけの、形だけの儀式ってなら、殿下一人でいい気がする。それにアヴァン軍を一個中隊くらいつければ、ほぼ完璧。
だいたいこんな言い方したくないけど、基準外れてるルーフェは別として、あたしたちじゃ正規の部隊なんかと比べ物にならないし。
それどころか、かえって危険が増しちゃうくらい。




