Episode:78
◇Nattiess
「山って、けっこう寒くない?」
「そりゃ、朝早いからだよ」
あの大騒ぎから何日か経って、あたしたちはまた、例の谷へ来てた。
辺りはまだ、山火事の跡が生々しく残ってる。
「いまさらだけど、よくあたしたち、生き残れたよね」
「ルーフェイアに足向けて寝れねぇな」
そんなことを言いながら、歩いてみたり。
今回は荷物は、多いって言えば多いけど少ないって言えば少ないの。
何しろ前は荷車で運んだから、それを思えばずいぶん軽装。ただ代わりにみんなの背中には、重そうなリュックがあって。
中身は、数日分の携行食料と着替え、それに寝袋。あと身体の大きいイマドが、テント背負ってる。
見てていちばん平気そうなのは、やっぱりルーフェ。次はたぶん、力のあるイマド。でもあたしたちだって、別にバテてるわけじゃない。
ただ殿下は、どうしても足手まとい風味だったり。っても主役だから、置いてこれないのが辛いとこ。
あともうひとつの問題が、ミルがついてきちゃったこと。
――絶対、大騒ぎになると思うんだけどなぁ。
そうは言っても、殿下が来るように言っちゃったから、あたしたちにもどうしようもなくて。
けどミル、イオニア先輩とは仲良しのせいか、今のところは大人しいのが救いかな?
殿下とかの話じゃ、行き先はこの奥。ルーフェたちが行った洞窟の、さらに向こうなんだって言う。
でもホントに、竜なんて居るのかなっても思ったり。
もちろん、竜自体が居るのはあたしも知ってる。ただその竜が、こんなに都合よく居るとは、とても思えなくて。
けど先輩が言うには、ルーフェたちが遭遇したの、その竜っぽいし……。
正直、ちょっとどころかかなり不安。
ルーフェも先輩も居るから大丈夫だとは思うし、作戦もかなり練ったから、すぐ死んだりはないと思う。
けど相手はなにしろ、竜なわけで。何かひとつでも間違えたら、大怪我くらいはしちゃいそう。
内心、辞退したほうがよかったかな?なんて気も。
ただ、シーモアはやる気満々。もともと負けん気抜群だから、こういうの見逃せないんだと思う。
イオニア先輩のほうも、実はやる気だったみたい。お金のことも折り合いついて、そのあとは俄然張り切ってたもの。
ルーフェは、いつもどおり。命令されたから淡々と遂行って感じで、こういうところで前線育ちが出てるかな、って思う。
イマドは、言うまでもナシ。ルーフェが行く以上、あいつが行かないとかないもの。
ミルは……正直何考えてるんだか、さっぱりわかんない。ニコニコしながらついてきちゃって、危機感とかゼロだし。