Episode:77
「やれやれ……」
思わずため息をつく。今回の件そのものは打開できるかもしれないが、その後のことを考えると、いろいろ頭が痛かった。
と、ドアがノックされる。
「ミルちゃんだよー、入っていいかなー?」
「構わん、入れ」
もう一度ため息をつきながら、ローウェルは破天荒な少女を出迎えた。
アヴァンに浅からぬ縁のある彼女は、竜玉を持ち込んできたこともあり、無視の出来ない人物になりつつある。
「殿下、ホントーに出来ると思う?」
「分からん。だがお前はやらせる気で、アレを持ってきたのだろう?」
タイミングといい、そのつもりがなかったとは言わせない。
だがこの少女は、薄く笑った。
「違うかもよ? もしかしたら……公爵家を滅ぼすためかも」
彼女と視線が合う。
薄水色の瞳が、いたずらっぽい色を浮かべていた。
「いまさらの嘘を言うな。本当にそのつもりなら、竜玉を秘匿したままでいたほうが、確実だろう」
「あ、バレちゃった~」
悪びれもせず、けらけらと笑い出す。本当に掴み所のない娘だ。
「けど殿下、ホントにやって、出来る? 出来なかったら、今度こそ終わりだよ」
「現状、終わったも同然だな。事態を収めるためには、僕が継承権を放棄するくらいしか思いつかん。だったらチャンスがあるだけ、運がいいと思うが?」
少女の笑みが満足げな、だがどこか腹黒いものに変わった。
「そこまでいちおう、考えてるんだ~」
「当たり前だ。馬鹿にしているのか?」
「えー、だってー。殿下けっこう、モノ知らないんだもん」
公爵家に面と向かってここまで言う人間が、果たしてほかに居るだろうか?
が、思った瞬間、ローウェルは苦笑した。今現在、そういう人間がここには何人も居る。
シエラから来た一行は、本当にみんな言いたい放題だ。あの一番年かさのイオニアというのは本当にひどいし、去年から来ているシーモアとナティエスという2人も好きに振舞っている。アヴァンに縁があるというあの男子でさえ、公爵家に対して臆したところがない。
権威や権力などとは縁遠く、自力で生きてきた彼らにとっては、どれも大したことではないのだろう。
事実、公爵家から離れてどれだけやれるか分からない自分と違って、彼らはどこへ放り出されても生きていけるはずだ。
――それがいちばん、強いのかもしれないな。
一人で生きていけるのなら、しがらみも建前もなく、好きな生き方ができる。
ただ自分も含め、そういう人間は少数派だ。だから小から大まで集団があり、果ては国家というものが出来る。
「でさ、殿下、失敗したらどうするの?」
「失敗してから考えることにする。今はともかく、このチャンスを生かすしかないからな」
答えを聞いた少女が、小さな声を立てて笑った。
「殿下、変わったねー」
「まぁ、その点に関しては言い訳が出来んな。去年の騒ぎから、ずいぶんいろいろ考えさせられた」
言って、ローウェルも笑う。
「明日もまた詳細を詰めて、準備して、だな。お前も早く寝ろ」
「はーい」
結局何が言いたかったのか分からないまま、少女は部屋を出て行った。




