Episode:75
「さーて、これを試さなきゃだな」
「あ、うん、そうだね」
いくら出来たって言っても、使えなきゃ意味がない。
「ここじゃ危ねぇな。外でも行くか」
「えっと、じゃぁ、結界」
呪文が外へもれ出さないように、部屋の内側に結界を張る。
「これで……心配ないと、思う」
「なるほどな。ホントお前、魔法の使い方ケタ外れてんな。マジ慣れてるわ」
たぶん、褒めてくれてるんだろう。ただイマドに言われると他の人と違って、そんなに嫌じゃなかった。
「なんかねぇかな……あ、これがいいか」
イマドが部屋の隅に転がっていた、何かの重しにでもしようとしたらしい石と、木箱とを持ってくる。
「これでいいだろ」
木箱の上に石という、ちょっと面白い順番で彼が積み上げた。たしかにこれなら、魔法がきちんと発動すれば、石の重みで箱が潰れて分かるだろう。
「発動させっぞ?」
石の上に魔石を置き、自分はあたしの傍まで離れてから、イマドが言う。
「だいじょうぶ」
答えると、彼がうなずいた。
そしてあの魔法の気配がして……唐突に箱が砕ける。
「お、けっこう威力あんな」
「すごいかも……」
確かに魔力は込めたけど、それにしたってあたしが使う魔法並だ。
――どれだけ、得意なんだろう?
たいていは魔石のほうが、術者が唱えるよりは威力が落ちる。本来その場で発動させるものなのに、「書き込む」という手順を取るかららしい。
なのにイマドが作ったものは、ほとんどロスがない感じだ。
もちろん込めた魔力の量や使う魔法で変わるから、一概には言えないけど……それでも、ふつうの石とはかなり違う。
古代人は魔法が得意だったと言い伝えられてるけど、本当なんだろう。先祖がえりらしいイマドを見ていて、そう思う。
「これなら、幾つか作りゃいけっかな」
「大丈夫……だと、思う。でも先輩に、見てもらわないと……」
たぶん心配ないだろうけど、確認してもらわなきゃだ。実戦で使う以上、指揮を執ってる人に見てもらうのが、一番間違いがない。
「ま、先輩もこれなら、文句言わねぇだろ。魔力込めなおしたら、行こうぜ」
「うん」
出来上がった魔石を手に2人で部屋を出て……なんとなく、イマドの手を握る。
一瞬驚いたみたいだけど、イマドは振り払ったりしなかった。
「どした?」
「ううん、なんでも……あ、でも、石化ごめん……」
思い出して、謝る。ずっとそれが、引っかかっていた。
「だから言ったろ、いいって」
「――うん、ありがと」
あとはどっちも黙ったまま、でもなんとなく暖かい気持ちで、先輩たちが待つ部屋まで戻った。