Episode:74
「もっかい、いけるか?」
「うん、だいじょぶ」
魔力の余波が治まるのを待って、もう一度、威力を限界まで絞って唱えてみる。
「――シュヴェア=ブロカーデ」
働いてはいるけど、目立っては分からない。その程度で魔法が発動する。
「……これで、いい?」
「いいけど、次から黙っててくれっか? 慣れてねぇ魔法だから、どうも見落とすわ」
「あ、ごめん……」
せっかく頑張ってるイマドのジャマをするなんて、あたし何をしてるんだろう。
「えっと、じゃぁ、もう一回」
「ああ。何度も悪りぃな」
ホントはひとつも悪くないのに、気を遣ってくれるイマド。それに甘えてる自分が、情けなくなってくる。
それでも失敗しないように、息を整えてまた唱えた。
――あたしに出来るのは、これだけだから。
上手くこの魔法で石が作れるようになれば、きっとイマドの役に立つだろう。
「シュヴェア=ブロカーデ」
「おし、捕まえたぜ」
予想もしなかったイマドの声に、あたしまで嬉しくなった。
思わず話しかけようとして……今度は必死に押さえる。また迷惑をかけたら、話にならない。
「んー、まぁ出来たかな」
少し経って、イマドのそんな言葉。
「ちっと石に、魔力足してくれっか? 型だけ書き込んじまったから、きっと魔力入ってねーと思う」
「あ、うん」
ふつうとはかけ離れた手順なのに、基本的なところは同じなのだなと、妙なところで感心する。
通常はこの手の魔石は、魔方陣を使って呪を上手く石に固定化させたうえで、あとから魔力を注ぐ。
理由は簡単で、このほうが事故が少ないことがひとつ。あとこの手順を分離することで、魔力を注ぎなおすとすぐ再使用できるのが大きい。
この手法が発明されてから、世界の文化水準は一気に上がった。
何しろ火を起こすにも明かりを点けるにも、それ用の魔石を用意すればいい。それまでの苦労に比べたら何もしないも同然で、当然あっという間に世界中に広まっていった。
今はほとんどの家庭で、この魔法が書き込まれた石と、魔力だけが込められた石をセットにして使うやり方で、道具なんかを動かしている。
「あんま、魔力入れなくていいからな。まず試さなきゃなんねーし」
「うん。えっと……入れすぎそうなら、言って」
視えるイマドに頼んでから、慎重に魔力を注ぎ込む。
「あともうちっと……あ、そこで」
即座にやめると、彼の満足そうな笑顔があった。
「ありがとな、助かるわ」
「ううん」
役に立てて、ほんとに嬉しい。