Episode:73
「魔石に触ってたほうが、呪文書き込み易いかんな。んで、お前に触ってたほうが、魔法が捉えやすいし」
そういえば触っていたほうがやり易いっていうのは、聞いたことがある。今はあまり使われないけど、同じ要領で、魔法を増幅させる杖なんかも、手に持っていたほうがいい。
たぶん、それと同じことなんだろう。
「ほら、唱えていいぞ」
「あ、うん」
そう答えたものの、なんだかドキドキして、上手く唱えられない。
――どうしよう。
こんなこと初めてだ。魔法のコントロールなんて、ふだんは考える必要も無いことなのに。
「どした?」
「……ごめん」
自分でもよく分からないまま、謝る。
「具合でも悪りぃのか?」
「ううん、そういうわけじゃ……」
間近から覗き込まれて、もっと動悸が早くなった。もしかして本当に、具合でも悪いんだろうか?
金にも見える琥珀色の瞳に、あたしが映ってる。
なんだか見ていられなくなって、思わず視線をそらした。
「……あー、そういうことな」
苦笑交じりにイマドが言って、あたしの頭にぽんと手を置く。
「落ち着けって。出来るだろ」
「あ、うん」
自分でも呆れてしまうけど、イマドにそう言われると、出来そうな気がする。
「――いくね」
「いつでもいいぞ」
彼の答えを聞きながら、ひとつだけ深呼吸して、呪を唱える。
「万物に宿りし力よ、すべてここに集いて形無きくびきとなれ――シュヴェア=ブロカーデ!」
「おい待て、威力デカすぎだ!」
発動するより早く聞こえた声に、はっとする。これじゃ最小じゃなくて、いつもどおりだ。
「早くっ、あの浮く魔法!」
言われて、理由も考えずに唱える。
「セレスティアル・レイメントっ!」
すんでのところで2つ目の魔法が発動して、重さを相殺した。
「この魔法、こういう関係だったんだ……」
「あれ、知らなかったのかよ? 原理はともかくこの2つ、力の向きがちょうど反対に働いてっぞ」
やっぱり視えるイマドは、あたしたちと魔法の捕らえ方が違う。




