Episode:72
「そ、そうよね。うん、それなら大丈夫。きっと大丈夫」
イオニア先輩、なんだかちょっと変だ。
「で、先輩。俺こいつと、魔石作りたいんですけど」
「え? あ、そうね、そうだった。何か要るものあるの?」
なんだか先輩、中身でも入れ替わったんだろうか?
「だから、こいつと魔石ですってば」
「そういえばそう言ってたわね。すぐ始められるの?」
一瞬で先輩、ペース戻ったらしい。もういつもどおりだ。
「ええ。空の魔石2つほどあるんで、とりあえずそれで試します。あと、どっか狭い部屋借りられませんかね? 広いとちっと気が散るんで」
「部屋は開いている部屋なら、どこでも使っていいそうよ。好きに選びなさい」
「んじゃそうします。ルーフェイア、行くぞ」
イマドに連れられて、食堂を出る。
「どこ開いてっかな」
1つ1つ確かめて歩くうち、丁度良さそうな部屋が見つかった。
元々は、物置にでもするつもりだったんだろう。壁は天井の方まで、棚が作りつけられていた。
中へ入って、ドアを閉める。
――二人きり。
なぜだろう、急に動悸がしてくる。
「おい、始めっぞ?」
「え、あ、うん」
落ち着こうとゆっくり息をしながら、答えた。
「どう……するの?」
「威力最小にして、魔法唱えてくれ。それ何回かやりゃ、1つは出来っから」
「そ、それだけ?」
あまりの簡単さに驚く。魔力が視えるだけあって、あたしたちとは根本的に、魔法の扱いが違うみたいだ。
「それだけっつか、要するに肝心の魔法が、俺が唱えられねぇってのが問題だかんな」
イマドはイマドで、違うところが引っかかってるらしい。
「ただお前だと、割と相性いいからさ。お前が唱えたモン使って、型作れっと思う」
「そうなんだ……」
要するに、あたしたちなら魔方陣を描いてパターンを石に埋め込むところを、唱えた魔法を使ってやってしまうんだろう。ものすごい効率の良さだ。
「じゃぁ、今……唱えればいい?」
「あ、ちっと待った」
けどイマドは、あたしの右手を取っただけだった。そして反対の手に、魔石を持つ。
「おし、いいぞ」
「ほんとに?」
何かさっきから、常識が覆されすぎだ。