Episode:71
「なぜ? こういうものなら学院、かなりの額で買い取るでしょうに」
「そう思いますけど、ヤなんですよ。こんなの出来るってヘタにバレたら、エラいことになりそうなんで」
イマドはなぜか、嫌というより悲しそうだった。昔、何かあったのかもしれない。
「あの、あたしからもお願いします」
思わず頼む。イマドのこんな表情を、見たくなかった。
「あら、子猫ちゃんまで? そうねぇ、じゃぁ代わりに……今晩あなたが、私と一緒の部屋で寝る。どぉ?」
にこにこしながら先輩が言う。
「えっと、それでいいんですか?」
「そうよ」
簡単すぎる交換条件に、ちょっと拍子抜けだ。
けどみんなは、なんか慌ててる。
「ルーフェ、ダメだってば! 先輩と一緒なんて絶対ダメ!」
「ほんとだよ。こんな先輩と一緒に居たら、何されるかわからんよ」
ナティエスもシーモアも、なんだかひどい言い方だ。
「そこの2人、取り引きなんだから口出さないでちょうだい。ごちゃごちゃ言うなら、相応の評価を学院に出させてもらうわよ?」
イオニア先輩、すごい脅し方だ。これを言われたら、学院生は黙るしかない。
「けど、先輩!」
「えっと、あの、あたし構わないから……」
ナティエス、ミル、シーモアの3人が、なんとも言えない顔になった。
「それにえっと、あたし……1人で居るの、好きじゃないし……」
みんなが顔を見合わせて、こんどは笑い出す。
「ルーフェ、1人ダメなんだー」
「でも、なんか分かる気もする」
口々に言われて、ちょっと複雑な気分だ。
「先輩先輩、あたしはー?」
ミルが意味深な視線で、先輩を見上げながら言う。
「そんなに何人も、入れないでしょ。あなたはまた今度」
「えー」
一見、他愛の無い感じのやり取り。なのに何か間違ったふうに見えるのは、なぜだろう?
「あーそうだ、先輩、こいつ預かってくれるなら、言っとくことが」
「何? くだらないことなら作った魔石、学院に出すわよ」
イマドの言葉に返す先輩、相変わらずきつい。
「くだらないかどうか知りませんけど、こいつ寝てるとき、絶対不意打ちしたらダメですからね。寝たまんま容赦なく反撃するんで」
「え……」
なぜか先輩が絶句する。こんなの初めてだ。
「ほ、ほんとなの、子猫ちゃん?」
「えっと、たぶん……何度か前線で、起きたら倒してたことあるので……」
正直あれは、寝覚めが悪いなんてもんじゃない。はっと目が覚めると、足元に死体があるのだから。
「そ、そうなの。まぁでもきっと、一緒にいるだけなら大丈夫よね」
「あ、はい、それなら。起きてるときは平気です」
起きててそれじゃ、ただの殺人狂だ。