Episode:70
「さすがにそれは、僕の一存では出せんな……。父上と相談する時間をくれ」
「ええ、喜んで」
先輩、ほんとイジワルだ。足元見てるの間違いない。
ふだんだったらこういうのって、国内でそれなりの人を集めて、きちんと準備してやることだ。
けど報道と世論があんな状態だから、今はそれが出来ない。それどころか、殿下の生死を不明にして、時間を稼いでる有様だ。
こういう状況で即座に連れて行けて、対応も出来そうなのは、シエラから来てるあたしたちだけだった。
「言っておきますけど殿下、これでも割安でしてよ。この子たち正規の傭兵隊じゃありませんから、2人で1人分の計算です。安上がりでしょう?」
あたしたち、格安だったらしい。
その割にはなんだか、傭兵隊並みの事をやらされた気もするけど……。
ただ殿下のほうも、やられっぱなしじゃなかった。
「イオニアとか言ったか? 仮に支払いに許可が出たとして、こういう事態だ。それから更に待たせるなんてことは、ないだろうな」
負けじとイオニア先輩を脅す。
――これじゃ効かないだろうけど。
どう見てもこの先輩、そういう神経は抜け落ちてそうだ。それどころか言い返すところが出来たと、余計に喜ぶだけだと思う。
タシュア先輩といいこの先輩といい、上級隊ってもしかして、妙な人ばっかりなんだろうか?
「殿下、払わないうちからそんなことを言っても、何にもなりませんけど? むしろその分、上乗せして頂かないと」
思ったとおり、見事に切り返される。
殿下はよっぽど面白くなかったんだろう、「父上と話してくる」とだけ言って、部屋を出て行ってしまった。
「ったく先輩、いじめすぎですよ」
「あら人聞きが悪いわね。餌をぶら下げなきゃ、有利な交渉は出来ないのも知らないの?」
先輩、悪びれる様子は無い。
まぁこの先輩が悪く思うなんて、天地がひっくり返ってもなさそうだけど……。
「で、俺らはやっぱ、作っときゃいいんですか?」
「当たり前でしょう。作っておいて使えばよし、使わなくても学院に出せば報酬が出るわ」
先輩が言ってる報酬って言うのは、学院から支払われるものだ。
学院は生徒が何か有用な物を作ったりすると、出来に応じて買い取ってくれる。もちろん店に売るほど高くではないけど、それでもお小遣いになるから、けっこう何か作る生徒は多かった。
ただそれに夢中になって、中には成績を落としすぎて退学になる人もいるっていうから、難しいところだ。
でも、イマドの答えは予想外だった。
「えっと、あの、俺それ……出したくないんで」
「え?」
さすがの先輩も、これには唖然とした表情になる。たぶんイオニア先輩にこんな顔させたの、イマドが初めてだろう。