Episode:69
「――マジか、それ」
「うん」
最初からそういう状態で育ってしまうと、他人との違いに気づかないことがけっこうある。イマドもたぶん、そのパターンなんだろう。
ましてや学院は、魔法が当たり前のところだ。視えてて困ることはないから、余計に気づかなかったに違いない。
「なんか……ショック続きだな。これ視えないで魔法使うとか、お前らどんだけ器用なんだよ」
「あたしらに言わせりゃ、視えるほうがおかしいって。本気でアンタ、気づかなかったのかい?」
「気づくかよ、ンなもん。俺は最初っから視えてんだぞ」
ほんとだったらもっとシリアスな話になりそうなのに、やり取りはなんだか軽快だ。
「まぁいいや。ともかく先輩、コイツ使って、魔石作ってみりゃいいんですよね?」
「そうなるわね。それで使えそうなら、考えてあげるわ」
言いながら先輩、挑発的な視線でイマドを見る。考えてあげると口では言ってるけど、出来ないとは言わせない、そんな表情だ。
その様子を見てた殿下が、なぜか不機嫌そうに言う。
「やるならすぐ、ここでやれ。それを持って、谷へ行くぞ」
「あら殿下、誰が行くといいました?」
イオニア先輩が予想外の言葉を返した。
「何を言う? 行くからこそ策を立てて、検証しているんだろうが」
「ですから、行くなんて言ってません」
してやったり。先輩そんな表情だ。
「殿下、今回の要請内容は、儀式への付き添いでしたよね?」
「そうだが……」
黒い笑顔、そうとしか言いようの無い笑みを浮かべて、先輩が話し始める。
「谷へ行って数日間過ごすという儀式は、滞りなく終わってます。むしろあんなアクシデントがあったんですから、危険手当を上乗せしていただいてもいいくらいですわ」
先輩が言うアクシデントは、襲われたり火事に遭ったりしたことだろう。
「なのに追加料金もなしに、さらにシエラの傭兵隊を使ったら……どうなるか分かりますよね?」
イオニア先輩はそれ以上言わなかったけど、要するに脅しだ。
シエラからの傭兵隊に契約外のことをさせたら、次から絶対に受けてくれない。かといって正規の組合なんかだと、いろいろと細かい縄張りがあったりするから、シエラみたいに融通が利かない。
だからシエラから締め出されたら、その手の仕事は法外な金額で、裏の組織に頼むしかなかった。
それを分かっての言葉だ。
「なら何故、検討なんかしたんだ」
「興味があったからです。何か問題でも?」
イオニア先輩、面白くて仕方ないらしい。見たこと無いほど楽しそうな表情だ。
「――分かった、払えばいいんだな。幾らだ」
「学院に聞かないとはっきりはわかりませんけど、5万レメ程でしょうね」
さすがにみんな絶句する。5万レメって言ったら、ふつうの家族が2年は暮らせる額だ。