Episode:68
「あー分かった! イマドって、古代人バージョンなんだ」
よく通る甲高い声が、よく分からないことを言う。
「古代人って、それ何?」
「あれ、ナティエス知らない? 昔って魔法とかすっごい上手な人たちが居て、いろいろ出来たんだよ」
毎度の事ながらミルの説明、意味不明だ。
「なんかよくわかんないけど、そういう人が居たってこと?」
「そそ、ナティエス頭いいー」
あまりに適当なやり取りに、ため息をつきたくなる。
ミルが言ってることは、辿れば神話の時代まで遡る話だ。
神話では、人はもともと魔法は使えなかったという。けど神々の1人が禁を破って、自分に従う人間に教えてくれたんだそうだ。
本当かどうかは知らない。
ただ魔法が最初の頃、一部の人しか使えなかったのは確かだ。呪文が発明されるまでは、魔法は特殊な才能を持つ人だけのものだった。その人たちが、今では古代人と称されている。
――使えない人も、古代の人だと思うんだけど。
けどそう呼ばないから仕方ない。
古代人は魔力そのものを直接扱えて、念話もできたって言うから、考えてみればイマドとそっくりだ。だからミルの言うのもそう間違いじゃなくて、一種の先祖がえりなんだろう。
ただ当のイマドは、不思議そうな表情だ。あんまり実感がないらしい。
「何でもいいわ。可能か不可能か、問題はそれだけなんだから」
あっさりとイオニア先輩が、盛り上がりかけた話を切って捨てる。
「時間はどのくらいかかるの? 何ヶ月もかかるようじゃ、話にならないわよ」
「んー、半日は要らないですよ」
この手の話が理解できてる、イオニア先輩と思わず顔を見合わせた。こんなのを半日なんて、早すぎる。
あたしたちの思いを知ってか、イマドがさらに続けた。
「使い慣れてる呪文なら、その場で出来るんですけどね。けど初めての魔法じゃ、きっとやり直しするんで」
もう言葉が出てこない。
イマドが魔力を、ふつうと違うやり方で扱ってるのは気づいてたけど、ここまでだなんて……。
「……ルーフェイア、お前まで何驚いてんだ?」
本人はやっぱり、自覚がないらしい。
「えっと……イマドあのね、魔力……視えてる?」
「当たり前だろ」
予想通りの答えが返ってきた。
「つか視えねぇで、どうやって使うんだよ」
「ごめん、あたし……視えない。あと、ほとんどの人って、たぶんそう……」
今度はイマドのほうが、しばらく言葉を無くす。