Episode:63
「この呪文、使えるの?」
「言い伝えでは、使えるらしいが……ルーフェイア、何か分かるか?」
話を振られて、あたしは本を覗き込んだ。
ざっと目を通してみる。
「どうだ?」
「えっと、少し待ってください。あとあの、竜玉を……」
殿下がうなずいて、竜玉を渡してくれた。それを手に、真音――魔法専門の特殊な言葉――の呪を唱えてみる。
竜玉が淡く光ったところで、あたしは呪文をやめた。
「問題ないと思います。今も反応しましたから、全部唱えれば発動します」
「なるほどね。じゃぁこれで、問題が一つ片付いたわ。そうするとあとは、どうやって行くかと、竜にどう聞かせるかだわね」
だんだん何をするかが、はっきりしてくる。
「どうやって行くかは、問題ないだろう。この洞窟までは、儀式の最中にルーフェイアが行っているからな」
「あらそうなの?」
向けられた先輩の視線が、様子を説明しろと言っている。
「洞窟までは、川沿いに行けます。ただどうも、何か大きい生き物の縄張りらしくて……」
そう前置いてから、洞窟周辺であったことを言うと、イオニア先輩が肩をすくめた。
「最初から竜が用意されてるみたいね」
「――え?」
意味が分からなくて、考え込む。
「上空を飛ぶ、大きなもの。しかも嫌がらせに、小動物の死体を落としてくる知能。竜以外の何があるのよ」
「あ……」
こんな人里近くに居ると思ってなかったから、全く頭になかったけど、言われてみればそうだ。
「姿が見えなかったのは、恐らく姿隠しの魔法でしょうね。上位種なら、そのくらいは使うもの。あなたたちもそれに気づかないで、よく死なずに済んだわね」
「すみません……」
先輩の言うとおりだった。向こうにその気がないから助かったけど、そうじゃなかったら今頃大変な騒ぎだ。運が良かったとしか言いようがない。
「いまさら、しかも私に謝られても困るわ。謝るなら、そのときの自分にでも謝るのね」
「あ、はい」
「自分に謝る」。こんなこと初めて言われたけど、目から鱗が落ちる思いだった。
要するに自分の悪かったところを良く考えて、乗り切れたこと事態は評価しろ、ってことだろう。たしかにそうしないと、前へなんて進めない。
本当なら謝らなくて済むようにするのがいちばんだけど……それはさすがに難しそうだ。
「まぁいいわ。どうやら目当ての上位種が居そうだから、召喚すれば来るでしょうね。あとはどうやって契約を聞かせるか、だわ」
言って、さしもの先輩も考え込む。
「間髪入れずに攻撃されたら、ひとたまりもないものね……事前に罠を張らないと」
「けど、向こうがウロウロしてんじゃ、魔方陣とか描いてらんねぇよなぁ」
イマドの言葉に、イオニア先輩がうなずく。