Episode:60
「15歳までに同年代の数名と、谷へ入って証を持ち帰る。儀式の要件は、本来これだけだ。あとは何もない」
「けど殿下、竜が欲しいときは違うっぽいこと、言ってたじゃないですか」
何か気になったのか、イマドが珍しく食い下がった。
「だから言ったろう、現地へ竜玉を持って行って、そのときに試されるとしか知らん。契約の言葉を竜に聞かせて、自分を契約者に加えるだけだ」
「聞かせる……?」
殿下の言葉にはっとする。もしかして相手の意思に関係なく、「聞かせて」しまえばいいってことだろうか?
もう一度、よく考えてみる。
自身ではあまり動きの取れない、虚弱な王。もう一方は、自身は動かず策略をめぐらす謀略王。軍師王も、恐らくその類だろう。
建国王がどうかは分からないけど、これは初代だから、まったく違う形で契約した可能性がある。だからパターンにはまらなくても、問題ないはずだ。
そして、「人には人の戦い方がある」の言葉。次々と思いつく、人のずるさや腹黒さ。
ただ繋がらないのは、「王としての資質」って言葉だ。そういうのってふつう、その人の持ってる強さと、あとは統率力とか判断力とかじゃないだろうか。
野生動物は群れのリーダーは、強さなんかで決まることが多い。この辺は人間とけっこう似てる。
竜にいたっては、強さのほかに統率力なんかが要るって聞いてる。こうなると人間とほとんど一緒だから、「人間だけ」と「資質」が両立しないだろう。
そうするとやっぱり、人間のずるさなんかのほうが、答えに近い気がする。
考えてみればシュマーをまとめる母さんや姉さんも、にこにこしながらその中身は、相当の腹黒さだ。資料を揃えて罠を張って追い込むようなことを、しょっちゅう交渉でやってる。
それ以外にも例えば軍じゃ、そういうのは当たり前の話だ。清廉潔白は悪くないけど、素直なだけの人は、ぜったいにトップに立てない。そんな人が隊長なんかになったら、下のほうは無駄死にさせられてしまう。
政治の世界はあたしはよく分からないけど、でも似たようなものだろう。駆け引きが多い世界だから、単なる「いい人」は、利益をむしられるだけになりそうだ。
――だとしたら。
出てきた答えを、ついつぶやく。
「竜を罠に……はめる?」
「――!」
あたしに、みんなの視線が集まった。
「なんかヒドすぎない、それ?」
「いやでも、アリだろ。どうせ俺ら竜にかなわねぇんだから、そんくらいやらねぇと」
あたしたちのやり取りを見ていたイオニア先輩が、なんとも言えない笑顔になった。
「まさか子猫ちゃんが、いちばん先に気づくなんてね。あなた、こういうのダメそうに見えたんだけど」
褒めてるんだかけなしてるんだか、よく分からない言われ方をされる。