Episode:58
「どうにも分からないわね。その話から考えると、強くても倒せないものが弱くても倒せる、っていうことになるじゃない」
「ふつう逆ですよね。てか心臓病とか、竜の前出ただけでショック死しかねねぇし」
イマドの言うとおりだ。
どうも人間は、竜への恐怖心が刷り込まれてるらしくて、咆哮を聞いただけでパニックになったりする。だから、相対したらなおさらだ。
そんなストレスに、心臓が弱い人が耐えられるとは思わなかった。
「まさか、これもインチキ儀式?」
「いや、それはないな。誤魔化して済むなら、全員竜が呼べるはずだ」
「あ、そっか」
武力も魔法もダメで、病気まで抱えている状態で、クリアできる試練。なのにもっとも有力そうな王は、クリアできていない。
「あ、じゃぁもしかして、頭の良さとか?」
「……期待を打ち砕いて悪いが、初代の建国王は、字も読めず計算も出来ん方でな。その手の頭は皆無だ」
殿下が言うには、カンが飛びぬけて優れていて決断力もあったけど、けして頭のいい方ではなかったという。
「まぁ確かに、スラムでもチームのリーダーが、秀才とは限らないしねぇ」
シーモアが言ってるの、ロデスティオのスラムで会った、ダグさんかなと思った。確かにあの人勉強は苦手そうだけど、リーダーとしてはけっこう立派だ。
だから建国王って言う人も、きっとそのタイプなんだろう。
「武力じゃないし、魔法でもなさそうだし。頭の良さも関係なさそうだし。ぜんぜん分かんないね」
「んー、だったらそれって、これかもよ?」
それまで黙ってたミルが、箱を差し出した。精緻な彫刻がされてる、銀の小箱だ。
「なんだ、これは?」
「竜玉入ってた箱ー。中にね、なんか書いてあるよ」
驚いた殿下が、受け取って中を覗く。
「ここか……『人は竜ではない。人には人の戦い方がある』。思わせぶりな言葉だな」
殿下の言うとおり、いろんなふうに取れる言葉だ。でも箱の中にわざわざ書いてある以上、これがいちばんのヒントなんだろう。
「人は竜じゃないって、当たり前といえば当たり前だけど。けどたしかに言われてみれば、やり方は違うわね」
イオニア先輩、何か思い当たったらしい。
「どういう意味なんです?」
「意味というか、ただの推測よ。でもあなたたちも上級隊を目指すなら、このくらいは分からないとダメね」
先輩、相変わらずだ。
「せんぱーい、イジワルしないで教えてくださいってばぁ」
ミルのやけに甘い声。やっぱり何か、いけないものを見せられてる気がする。