Episode:56
「屋敷へ戻らんといかんな。何か資料があるとしたら、あそこ以外にない」
「あ、持って来たよー」
ミルのかん高い声に、視線が集まった。
「持ってきた……って?」
「うんー♪ 学院から来ましたーってイオニア先輩に取り次いでもらって、殿下のお父さんにこれ見せてねー」
そう言って竜玉を誇らしげに掲げるミル。きっとお屋敷は、大騒動だったろう。
「んでね、継承だから要りそうな本出してーって。そしたら出してくれたのー」
殿下のお父さん、早く追い払いたかったんだろうか? ともかく気の毒だ。
「なんだかよく分からんが……ともかくその本とやらを出せ」
言われて珍しく素直に、ミルが持ってきたものを差し出した。公爵家の年代史や歴代当主の記録、それに日記なんかみたいだ。
殿下のお父さん、思いつく限りのものを持たせてくれたらしい。
「これ、全部読むのかい?」
「仕方あるまい。まさかこのまま竜玉だけ持って、のこのこ行くわけにもいかん」
この辺は殿下も、ちゃんと分かってるみたいだ。
「さすがに文体が古いな。これは読むのに時間がかかるか……」
「あたし、全部読んだー」
思いもしない言葉に、またみんなの視線が集中する。
「ミル、あんた読んだって……これ全部かい?!」
「うん。出してもらったときに、片っ端から読んじゃったー。あとここへ来るまでにも」
頭を抱えたくなる。たしかにミル、Aクラスから落ちたことはないっていうけど、なんか考えたくない世界だ。
「さすがね、私が見込んだだけのことはあるわ」
「でしょでしょ、先輩褒めて褒めてー」
はしゃぐミルと、その頭を撫でてるイオニア先輩。ほほえましい光景のはずなのに、どこかが違う。
「暗唱もできるよー。しよか?」
どう考えてもミル、常識的な範囲から外れてる。なんで1回読んだだけで、暗唱まで出来るんだろう?
殿下が呆れた風に頭を振りながら、言った。
「暗唱は別にいいが……竜玉が盗まれる前の歴代の王で、竜騎士だったのは3人だったな」
「ざんねんー。初代、三代、五代、九代の4人だよー」
まるで何かのクイズだ。というか、即答できるミルがすごい。
「意外と少ないわね。たった半分?」
さすが上級隊だけあって、イオニア先輩も公爵家の歴史を暗記してるみたいだ。あたしも今度から見習って、任務の前にはちゃんと調べておこうと思う。
「まぁ二代目で既に、竜を呼べない者が王位に就いているくらいだからな。半分も居れば上出来だと思うが」
殿下の言い方からすると、王位に儀式らしきものは必須だけど、竜騎士かどうかは関係ないらしい。
「この日記とか読めば、試練のこと分かるんじゃないか?」
「書いてなかったよ」
さらりとミルが言う。




