Episode:55
「なんでンなに重要なモン、しかも姫が盗むんだよ」
「婚約者が試練に挑むと聞いて、居ても立ってもいられなくなったらしいな。死ぬこともあるから、そうなっては遅いとコトに及んだそうだ」
「それにしたって、やりすぎだろ」
同感だ。好きな人に死んでほしくなかったのは分かるけど、こんな大事なものを隠したりしたら、やっぱりダメだろう。
「僕に言うな。まぁその姫は美貌だが、少々考えが足りない方でな。おそらく深く考えずにやったのだと思うぞ」
公爵家といえども、聡明な人ばかりではないらしい。
「ともかく、そういうことだ。ただその姫も、モノが何かは知っていたからな。さすがに捨てたりはせず、信頼のおける侍女あたりに持たせたのだろう」
やっとなんとなく理解する。
ミルのお母さんはアヴァンの人だと言っていたから、きっと先祖をたどると、それなりの血筋へ突き当たるんだろう。もしかすると、その侍女さんだったりするのかもしれない。
「まぁ公式には、押し入った賊が盗んだということになっているがな。そもそも盗まれたという話自体、一部の貴族しか知らん」
それはそうだろう。そんな大事なものをお姫さまが盗んだなんて知れたら、それこそ国がひっくり返る騒ぎだ。
「もしかして、儀式が今のインチキスタイルになったの、そのせい?」
「一部はそうだな。ただその前から、どうにも試練がムリと思われる者に関しては、同じことをやっていたそうだ。だからなんとも言えん」
平然と答える殿下に、誰も二の句が次げなかった。王族とか貴族が裏と表で違いすぎるのは聞いたことがあるけど……ここまで凄いなんて。
「ったく、それじゃ儀式なんて、ハナっから必要なかったってコトじゃないか」
「いや、必要だぞ。こういう形式は大事だからな。ただ、命を賭けるほどの物でもないだろう」
昨日まで命懸けで儀式をしてきた殿下が、そんなことを言うのは少し面白い。
「それにしてもこれ、何に使うの? もしかして、竜が呼べたりする?」
「そうだ」
あっさり言われて、みんながまた言葉を失った。
少しして、イマドが口を開く。
「そ、それってマジで、騒ぎ起こせんじゃね?」
「可能でしょうね。殿下が乗ってシティのど真ん中へ降りでもすれば、大騒ぎになるわ」
イオニア先輩も同意する。
――やれるかもしれない。
みんながそう思いだしたところへ、さらりと殿下が言った。
「さっきも言ったとおり、試練があるがな」
「え……」
言われてみればたしかに、殿下は試練と何度も口にしている。
「どんな試練なの?」
「詳細は分からん。この竜玉を持って谷の奥へ行き、契約者の中に自分を書き加える。その際に、資質を試されるとだけ伝わっている」
なんだか漠然とした話で、どんな試練なのか見当も付かない。




