Episode:54
「んー、だったらさ、もーっと派手にやるとかは?」
ミルが珍しくまともっぽいことを言って、みんなの視線が集まる。
「派手に、って何すんだい」
「さぁー? でもさ、思わず報道が飛びつくようなことしたら、魔視鏡で流れると思うー」
ミルの言うことは漠然としててよく分からないけど、先輩は思うところがあったらしい。
「あのゴミ連中、浅ましいものね。たしかにエサをぶら下げれば、簡単に食いつくわ」
「そりゃ分かりますけど、連中、殿下と公爵家もシカトしてますよ? これ以上のエサなんて、どこにあんですか」
イマド、ずいぶんヒドい言い方だ。殿下たちがエサになってる。
ただ、言ってることはそうおかしくない。王族と歴史とを誇るアヴァンで、これ以上の話の種があるとは思えなかった。
「じゃぁ、こういうのはどぉ?」
いつもと違うミルの声音に、はっとする。
彼女の何かぞっとするような、黒い微笑み。
「お祭り騒ぎ、起こせばいいんだもの。なら、これ使えば出来るかもよ?」
言いながら彼女が懐から出したのは、何かの宝玉だった。赤ちゃんの手くらいの大きさで、中でちらちらと炎が踊っている。
「なんだい、これ?」
「初めて見るわね……」
みんなが不思議そうに覗き込む中、殿下の顔色が変わった。
「まさか竜玉?! なぜ、お前がそれをっ!」
ミルは、相変わらずの黒い笑顔だ。
「なんでってほらぁ、あたしのママ、アヴァンの人だしー」
それで何かとても貴重らしいものを、持ってる理由にはならないと思うけど……。
ただ殿下はどういうわけか、それで納得したらしい。
「そういうふうに、隠されていたのか。だが確かに、可能性は出てきたな」
「どういうことだい? てか、そもそもこれって?」
殿下が腕組みをして、少し考え込んだ。
「まぁお前たちは、儀式の話も知っていることだしな」
そんなことをつぶやいてから、顔を上げる。
「これはさっきも言ったが、竜玉だ。本来は今回の儀式に使う」
「え、そうなの?!」
ナティエスが興味深そうに言う。
「欲しいかも。綺麗だし」
「馬鹿を言うな。公爵家にとって、本来儀式より大切なものだぞ」
間髪入れずに断られて、ナティエスが首をすくめた。
「ごめんごめん。でもだったらこれ、なんでミルが持ってたの?」
意味ありげな視線をミルと交わしたあと、殿下が答えた。
「この竜玉、じつは三百年ほど前に盗まれてな」
「しょーもないね。ンな大事なもの盗まれるとか、警備兵なにやってたんだい」
つい言ったらしいシーモアに、殿下がなんとも言えない表情になる。
「警備は関係ない。なにしろ盗んだのは当時のお妃候補だった、我が公爵家のセルマ姫だ」
「おい……」
アヴァンの公爵家、かなり昔から秘密だらけらしい。