Episode:53
「マジでキツくないかい? 前回は言いがかりに近かったのに、それでも成功したんだろ? けど今回はこっちに非があるから、言い逃れできないじゃないか」
「――まったくだ。対抗手段が思いつかん」
殿下が難しい顔になる。
「庶民はこの手のスキャンダルが、好きだからな。同じだけの量の報道をしても、まだこちらに不利だ。ましてや報道を押さえられては……」
報道を押さえられたってことは、こちらからまともに発信できない、ってことだ。
どんなにいい意見も真実も、伝わらなければ意味が無い。逆に伝えることが出来るなら、嘘だって信じる人が出る。
まさに八方ふさがりだった。
「ともかくこの件、父上に相談したほうがいいな。ここで言っていても埒があかん」
言いながら、殿下が奥へ行こうとしたときだ。
「ちょっと、誰か開けなさいな」
乱暴なノックと同時に、高飛車な声が聞こえた。
――ノックされないうちから開いたら、怖い気がするのだけど。
もっともドアの向こうはそんなのお構いなしだから、急いで開けに行く。入ってきたのはもちろん、イオニア先輩だ。
「まったく。こっちは一晩寒空の下にいたのに、あなたたちこんなところでゆっくり寝てたなんて」
開口一番怒られた。
「えーでも、先輩もけっこう、ぬくぬくしてましたよー?」
「……え?」
あらぬところから聞こえた声に、全員が石化する。
だって、この声……。
「あれ、どしたの? みんな固まっちゃって、おもしろーい」
ひょこんとドアの影から、ミルが顔を出した。
「な、なんでてめっ、ここに居るんだっ!」
「んー? なんかねー、こっちで継承ってちょっと聞いたからー」
理由になってない。
「えーと、イオニア先輩、この生き物何ですか?」
「失礼ね、よく分からないけど屋敷へ来たから、連れてきただけよ」
もっと理由になってない。
「だって、先輩とあたしの仲だしー」
含み笑いで言いながら、イオニア先輩に寄り添うミル。何かすごく間違ったものを、見てしまった気がする。
何だかくらくらしてきたあたしたちに、先輩の声が飛んだ。
「いつまで固まってる気? 早く状況を説明なさい!」
「は、はいっ!」
慌てて先輩に、ここまでの経過を説明する。
聞き終えた先輩が、腕組みをしながら考え込んだ。
「要するにその左派とやらが、国自体を狙ってるわけね。で、阻止するにはどうするか、と」
「けど、ちょっと方法が見つからなくて……」
何を言ってもやっても、隠されてしまってはどうにもならない。