Episode:52
「……なんか俺、さすがにちっと、ショックなんですけど」
アヴァンに縁のあるイマドが言う。
「そうか、それは良かった」
茶化したような言い方で、答える殿下。でもその声には、非難の色はなかった。
「まぁ事情が事情だから、詳細も公開されていないしな。知らずに誤解しているのは、やむをえんだろう」
そんな殿下を見ながら、大変だなと思う。たしかに公爵家はお金に困ることはないだろうけど、こんな話が常に付いて回るんじゃ、神経が磨り減って無くなりそうだ。
「けどやっぱ、なんか分からんね……。話聞いてるかぎりじゃ、庶民思いの立派な王女さまだったんだろ? なのになんだって、いきなり“国を棄てる”だのって、みんな思い込んだんだい?」
シーモアの疑問に、ナティエスもうなずいた。
「たしかに、言われてみればヘンだよね。立派なお姫さまって分かってるんだから、そういう話って仮に聞いても、笑って流すのがふつうだし」
「そこは今もって、我が家でも謎に……」
殿下の言葉の途中で、はっとする。
「あの、もしかしてそれ、今と同じじゃ?」
「ん? ――あ、そーゆー話かよっ!」
イマドがいち早く、意味に気づいた。
「どういう話だと言うんだ?」
「だから、今と同じですって。報道使って特定のヤツに不利な話を、徹底して流す。嘘も100回言えば相手は信じる、ってヤツですよ」
みんなもはっとした顔になる。
「つまり、“姫が国を棄てる”って、意図的に流した……」
「部外者が知れる情報なんて、限られちまってっからな。それを逆手にとって、それっぽく何度も嘘スレスレのこと魔視鏡で流しゃ、簡単に思い込んじまうだろ」
イマドの言葉に、誰もが表情を険しくした。
「だとすると我が国の報道は、あの頃から連中に握られていたのか?」
考えながら、言う。
「可能性は……あると、思います。諜報戦は、基本ですし」
他国と戦争をするしないに関わらず、諜報戦は行われる。たった一つの情報を取るために、何人もが死ぬことだってあるくらいだ。
この場合は内戦に近いものだけど、基本は変わらない。事を起こす前に、自陣に有利になるように立ち回るのは、基礎の基礎だ。
そしてその際、出来るなら報道関係を押さえるというのも、基本的なことだった。
――難しいのだけど。
簡単に思い通りに出来るのなら、諜報戦なんて苦労しない。けど何故かその「難しいこと」が、この国ではやれているみたいだ。
「もしそうだとすると、かれこれ20年越しかい?」
「そうなるな……。これではどこまで入り込まれたか、見当もつかん」
仮に王女さまの頃からだとするなら、出奔で世論が押さえられてしまったあとも、工作は続けてただろう。
それにこれなら、捕虜さんが言ってた話とも、辻褄が合ってくる。思い通りに話を流してくれる報道を利用して、「王家の儀式の不正」という大スキャンダルと非難する意見を流し続ければ、世論はそれこそ思い通りだ。
そして今朝、魔視鏡で見たのが……まさにそれなんだろう。