Episode:45
「あーあ、なんか疲れちゃった。帰ったら、お菓子食べたいかも」
「……ケーキ?」
「ルーフェ、ケーキ好きだよねー」
待つ間の、他愛ない会話。
「なんだ、ケーキが好きなのか? ならば戻ったら、山ほど用意してやるぞ」
イマイチ分かってない殿下が、要らん横槍を入れる。
「何か欲しいものはあるか? シェフなら、大抵の種類は作れるはずだ」
「えっと、あの、あたし別に……」
案の定、ルーフェは決められない。てか、そんなに欲しそうでもないし。
「遠慮するな、なんなら他国からでも取り寄せるぞ」
「……いいかげんにしなって。見つかっちまうよ」
さすがに呆れて、殿下の饒舌を止める。久々に自分の出来ることが出て嬉しいんだろうけど、場違いだ。
殿下もようやっと気づいたみたいで、それっきり押し黙る。
「あいつら、動くんじゃねぇか?」
ちょっと気まずいほどの沈黙になったのを、イマドが軽い調子で破った。
みんなの視線が一斉に、谷の入り口へ向く。たしかにこいつの言うとおり、隊列組んだ一行が、前に立った偉そうな人の話を聞いてた。
それから号令があって、列が動き始める。あたしらが潜んでる茂みの、目と鼻の先を通ってったけど、事情を知ってる隊長さん以外は、誰も視線を向けなかった。
無事で、しかもこんな間近にいるなんて、考えてもないんだろう。ルーフェの作戦が大当たりだ。
隊列が完全に通り過ぎて、向こうの暗闇に見えなくなってから、あたしらは茂みから這い出した。
暗がりを伝って、そっと谷を出る。
物陰から見回すと、少し離れたところに、たくさんの車両と天幕があった。あそこがたぶん、指揮所だ。
闇の中、互いにうなずきあって、走り出す。
今度は先頭がルーフェとイマド、真ん中に殿下で、あたしとナティが最後尾だ。
――やっぱ、悔しいな。
万が一武器でも向けられたとき、確実に対処出来るのはルーフェだ。だからあの子が先頭に立つのは、間違っちゃいない。
けど今回、片っ端からルーフェが独りで、コトを片付けちまってる。あたしらこれじゃ、ただのオマケだ。
そんなこと思ってる間に、ルーフェとイマドはあっさり走り抜けて、天幕の中へ滑り込んだ。
あたしらもほんの少し遅れて、中へ入り込む。
「殿下、よくご無事で!」
あらかじめ話が伝えられてたんだろう、中は偉そうな人が勢ぞろいしてた。あと真ん中に置かれたテーブルに、軽食なんかが用意してある。
「お疲れでしょう? すぐお休みになりますか?」
「いや、少しお前たちと話がしたい。どうもいろいろ、事態が深刻なようだ」
予想してたのか、偉い人たちがうなずいた。
「では今、お飲み物を。お連れの方々もどうぞお座りください」
椅子を勧められて、あったかいお茶が出されて、話が始まる。
殿下がホントに簡単に経緯を言うと、みんなが思案顔になった。
「殿下から知らせを受けて、襲撃者の素性は予測していましたが……火事もでしたか」
どうやら本気で、この人たちの予測を事態が上回ってるらしい。
だとすると……かなり状況はヤバいはずだ。だいたいが後手に回ったときってのは、良くて苦戦、悪いと負けになる。
「殿下、差し支えなければどのような状況だったか、お教えいただけますか?」
「それは僕より、この者たちのほうが適任だな」
こっちへ話が振られる。
互いに目配せした後、けっきょくルーフェが説明を始めた。