Episode:44
「だとしたらなおさら、あたしら何に振り回されてんだろね」
「んー、なんだろね?」
こうやって改めて考えてみると、さっぱり分からない。ナティの言うとおり、「知ってる範囲でテキトーに」ってのがいちばんありそうだ。
でもそれじゃ、全部のことを知らない限り、答えなんて出ないってことになる。
「結局、ホントに正しいことなんてないのかね」
「そうだと思う。そうじゃなかったら、あたしこんなに、いろいろ変わらなかっただろうし」
実際にそういう目に遭ったナティの言葉は、説得力があった。
なんかそれ以上話が続けられなくなって、二人で肩を寄せ合う。人間に理解できる距離なんて、こんなもんなのかもしれない。
それからふと思う。
「あたしらに会って、殿下もなんか分かったのかね?」
世の中の、いちばん上といちばん下。あたしらはそんな位置関係のはずだ。
ナティがあごに人差し指を当てながら、暗い空を仰いで言う。
「どうだろ? 殿下たしかにちょっと変わったけど、それってルーフェが原因ぽいんだもの」
「言えてる」
思わず二人で、暗闇で小さく笑った。良くも悪くもあの殿下、ルーフェにぞっこんだ。
「けどあの子、殿下にどうこう出来るほどヤワとは、思えないんだけどねぇ」
「そりゃそうだけど、ほらルーフェって見た目と性格だけは、“守ってあげたい”タイプだし」
あれをどうやって守るのかあたしにゃ見当つかないけど、ナティの言うとおりだ。儚げなあの顔で、碧い瞳に涙ためて見上げられたら、堕ちない男のほうが珍しいだろう。
あの太刀だの魔法より、ある意味破壊力抜群だ。
「まぁ最終的に、元の鞘だと思うんだけどなー」
「ったく殿下もバカなことするよ。どう見たって横恋慕だってのに」
とはいえそれで片付かないのが、こういうことなんだろうけど。
「……そろそろみんな、来るかな?」
ふと声をひそめて、ナティが訊いて来た。
「来るだろうね――あぁ、来たよ」
言ってる傍から、小枝を踏みしだく音が聞こえてくる。どこにいるか丸分かりだ。
ってもこういうとこ歩くのに、殿下が慣れてないから仕方ない。てかこれがルーフェだけだったら、いきなり真後ろに立たれて、今頃仰天してるだろう。
思ってるうちに足音が近づいて、三人があたしらの傍へ来た。
「様子はどうだ?」
「様子って言うか、捜索隊出すつもりだったらしいね。いま組織して待機させてるよ」
「そうか」
短く答えた殿下、けどちょっと嬉しそうだ。
「あの捜索隊が行ったら、こっそり行けばいいのよね?」
「んだな。出てったあとのドサクサ狙えば、さっくり行けるって」
イマドの言葉に、みんながうなずく。