Episode:41
◇Seamore
真っ暗な中を月明かり頼りに、あたしらは谷の出口へ向かってた。
先頭はイマド。どういうわけかコイツ、昔っからやたらと夜目が利く。
で、危険の多い最後尾はルーフェが買って出て、あたしらは殿下挟んで真ん中だ。
正直いちばん小さいルーフェに、殿任せるのは割り切れないとこがある。けどあの子がいちばん強いわけで、ほかの選択肢は取れなかった。
「あとちょっとで、谷の出口見えるぜ」
「ほんとに?」
そんな会話をしながら、暗い足元に気をつけて藪を出ようとして……ルーフェがあたしらを止めた。
「ルーフェ、何?」
「いま行かないほうが……いいと思う」
みんなに緊張が走る。この子がこう言う時は、大抵なんか危ない。
ただルーフェのほうは、今回はそういうつもりじゃなかったらしくて、慌てて付け加えた。
「えっと、そうじゃなくて……敵は殿下、死んだって思ってるから。なのに迂闊に出てったら、生きてたのが分かっちゃう」
「あ、そういうことか」
なんせ谷の出口だ。恐らく敵は見張ってる。そこへノコノコ出てったら、せっかくの偽装が水の泡ってことだろう。
「どうする?」
「先に……投げ文か何かで、こっそり知らせたほうがいいかも。殿下は無事で日付変わったら戻るけど、見張られてるから無事じゃないフリしてほしい、って」
ルーフェが即座に答えた。さすが学年主席の戦場育ちなだけあって、こういうことは頭が回る。
「じゃぁ、紙」
「待って、あたし、いま書く……」
どっからかごそごそと、ルーフェが紙とペンを出した。けど、手間取ってる。
「何やってんだお前」
「暗くて……」
さすがのルーフェも、この暗さじゃ上手く読み書き出来ないらしい。魔光灯点けりゃいいんだろうけど、見つかること考えると、使うわけにいかないから困る。
「貸せよ、俺書くわ」
いちばん夜目の利くイマド――こいつの目どうなってんだい――が、横から奪ってさらさらっと書いた。
「これでいいか?」
「えっと……うん、これで。あと殿下にサイン、してもわらないと」
今度は殿下に紙が回る。
「書けますか?」
「サインくらいなら大丈夫だ」
答えて殿下が書き慣れてんだろう、すぐにサインして紙を返してきた。
「これを、届けるのよね?」
ナティエスの問いに、ルーフェのヤツがうなずく。
「じゃぁ、あたしら行くよ。幾らかは早く行けるだろうし」
このくらいはしないと、ルーフェに任せっぱなしで、あたしらの立つ瀬がない。
「いいの?」
「もちろん」
短い会話のあと、あたしは紙を受け取った。