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Episode:40

「早く決めろよ。つかこのまま置いといていいよな?」

「やっ、やります! この命と家の名にかけて、やります!」

 捕虜さんが叫んだ。


「家の名? まさか貴族か?」

「いえ、貴族って言うほどじゃなくて……それでもいちおう、準男爵の家でした。ただ先々代のときに、取り潰されたので」

 どうりで、革命派にしては変わっているわけだと納得する。没落したとはいえ世襲の家柄だったなら、公爵家に楯突くのは嫌だろう。


「そうか。ならば我が名に賭けてそなたに誓おう。ユーベル=ブノワ、そなたが公爵家に従う限り家族を保護し、任を全うした暁には家の再興を約束する」

 なんだか大げさなやりとりだけど、効果はあったらしい。捕虜さん、感極まって泣きだした。


「今から泣いてどうする。泣くのは家が再興してからにしろ」

「は、はいっ!」

 やる気満々の捕虜さん。たぶんこの状況が何を意味するか、分かってない。


 いま殿下がやれと言っているのは、要するに裏切りだ。そんなことをしたら、よほど運が良くないかぎり、末路は決まってる。

 とはいえ家族が保護されるのは間違いないし、死んでも家は再興されそうだから、この人にとってはそれで十分なのかもしれなかった。


「ほかにお前たち、この者に言うことはあるか?」

「あ、えぇとあの、命令されて手分けして探しに行った、ってことにしたほうが。で、合流できなくて戻ってきたって言えば、たぶん時間が稼げます」

 殿下の策に付け加える。


 もう一人の襲撃者は死んでるわけだから、そこから情報が漏れる心配はない。死体の隠し場所もあたし以外知らないし、この捕虜さん気が弱くて期待されてなさそうだから、おそらくこの言い訳で通るだろう。


「今の話、分かったな?」

「了解です!」

 捕虜さん、親衛隊気分だ。縄を解いてもらったとたん、殿下に敬礼してる。


「さて、我々も行くか」

 捕虜さんの後姿を見送りながら、殿下が言った。みんなも同意して、行きとはうって変わって減った荷物を手に、歩き出す。


「にしても殿下、何でこの状態で、捜索隊とか来ないんだい?」

 ある意味もっともな質問を、途中でシーモアがした。


「あたしらはともかく、殿下に何かあったら、国中が大騒ぎだ。なのに様子も見に来ないって、ちょっと理解できないんだけどね」

「儀式中だからな」

 さっきも聞いた答えを、殿下が口にする。


「けど殿下、いっくら儀式って言ってもアレじゃない? なんかあったら困るでしょ」

「言いたいことは分かるが、儀式の最中に部外者が入ると、その時点で僕の継承権がなくなるからな。だから日付が変わるまで、待ってるんだろう」

 この説明に、みんな納得のいかない顔だ。


「継承権は分かるけど、もしそのあいだに殿下死んじゃったら、どうするつもりなの? ホント貴族の考えることって、分かんない」

「命より名誉、だっけかね? けど死んだら、なんにもなんないだろうに」

 そんなあたしたちを見て、殿下がちょっと満足そうな笑顔になった。


「お前たちは、いつも本音だな」

「何をいまさら。あたしたちにしてみりゃ、いつも建前ばっかの殿下たちのほうが、よっぽどおかしいって」

 シーモアの歯に衣着せぬ物言いに、みんなもにやりと笑う。

 イマドがまとめた荷物を、背負いなおした。


「ともかく行こうぜ。こうなった以上、同じ場所にずっと居たらヤバいしな」

「うん」

 答えて谷の出口へ、あたしたちは向かった。




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