Episode:39
「なるほどな……。ならばお前は、どうすればいいと思う?」
訊かれて答える。
「ベストは連行ですけど、ダメならここに放置か……殺害かと」
みんなが息を飲むのが分かった。
思い知る。自分が『そういう』人間なのだと。
平穏な日常や常識とは相容れない、何かもっと別のもの……。
「で、でも、それちょっと可哀想じゃない?」
ナティエスの言うことは、ごくふつうだ。おかしいのはこの場所と、あたしなのだから。ただそうと分かっていても、その「常識」に従うわけにいかない。
と、なんともいえない雰囲気へ、イマドが割り込んだ。
「まー殺しちまうのがいいってのは、俺も賛成だけどさ」
いつもと変わらない声が、空気を溶かしていく。
彼を見ると目が合った。分かっている、そんな感じの琥珀色の瞳にほっとする。
それは甘えなのだろうけど、そう感じてしまうのを止められなかった。
「けどよ、今回に限っては、殿下に従わなきゃ家族死ぬんじゃね?」
何か思い当たったのか、捕虜の人が硬直する。
「あんた分かってそうだけど、借金のカタに家族人質にしちまうとこなんだろ? なのに殿下と会って話して逃がしたなんて分かったら、『反乱分子』とか言われて家族皆殺しだぜ」
「確かにありそうだな。どうもあの連中は、血の気が多いうえ狭量だからな」
それなりに事情を知っている殿下が、嫌な肯定をした。
捕虜の人にいたっては、震えだす有様だ。どうもその革命派、そうとうのことを平気でやるらしい。
「よく分かんないんだけど……要するに、もう詰んじゃってるってこと?」
不思議そうなナティエスに、殿下が答える。
「この国の革命派とやらは、先程も言ったが、どうにも先鋭的でな。しかも何でも力に訴える。聞いた話では、意見が合わないと粛清されるらしい」
「……サル山のボスみたい」
辛辣な意見に、イマドが返した。
「サル以下だろ。あいつら殺し合いはしねーぞ」
「あ、そっか。サルに失礼だね」
当人たちが聞いたら、それこそ真っ赤になって怒りそうだ。
「あの……それで自分、どうすれば」
捕虜さんが、困ったみたいな顔で訊く。
「どうすればって、いい年してんだから自分で考えろっての。まぁ殿下の言うとおりにすっか、全部バラして粛清されっか、ケツまくってこのままどっか逃げるか、その辺だけどな」
イマドがさらりと、説明するフリをして誘導した。
この辺は、彼はずば抜けて上手い。相手に考えさせるように仕向けながら、実際には都合のいい選択肢を並べて、相手を思うとおりにしてしまう。
――あたしも、やられてるかな?
一瞬そう思ったけど、それでもいいかな、とも思った。仮にあたしが不利になっても、彼を疑いたくない。
むしろあたしのほうこそ、あんなマネをするわけで……。