Episode:38
「もう表沙汰になってるってこと?」
心配そうなナティエスの言葉に、殿下が答えた。
「分からんが、おそらくそうだ。
この手の話に庶民は食いつく。流して話題になったところで仕掛けられたら、世論を根こそぎ反対の方向に向けられかねん」
「殿下、やけに詳しいじゃないか」
シーモアの突っ込みに、殿下がなんとも言えない表情になる。
「ダテに長い間、生き残ってねーってことだろ。そんくらい出来なきゃ、王家なんてとっくに潰れてるって」
「……たしかに」
どうやらこういう世界、裏側はそうとうすごい駆け引きなんかが、されてるみたいだ。
「で、マジでどうするのさ。ともかくこのままってワケには、いかないんだろ?」
「戻るしかないだろうな」
殿下が決断する。
「外がどうなっているにせよ、ここからでは手も足も出ん。合流して状況を把握するのが先決だろう」
妥当な判断だ。みんなも戻る用意を、また始める。
「あの、自分はどうすれば……」
捕虜の人が、弱々しく尋ねてきた。
シーモアが答える。
「殺されなかっただけ、マシだと思いなよ。ってもこの辺、夜とかなんか居るらしいからね。そのままだと、喰われちまうかもね」
「そうだよねー。みんな燃えちゃってエサもないから、何でも襲いそうだよね」
ナティエスまでが一緒になって、脅して喜んでる。
当たり前だけど、捕虜の人は血の気が引いて、震え上がった。
「やれやれ、お前たちも人が悪いな」
殿下が苦笑しながら、捕虜の前へ出た。
「たしか、ユーベルだったな。そなた、僕に忠誠を誓う気はあるか?」
「は、はい! あります、ありますっ!」
勢いよく捕虜の人は言って、喋り始める。
「もともと自分、王室は好きなんです! だから今度の作戦、イヤでイヤで。でも従わないと、家族がどうなるか分からなくて……」
本当かどうか確かめたくて、イマドのほうを見たら、彼がうなずいた。情けない話だけどこの人、さっき言ってたとおり、やる気の無いまま活動してたんだろう。
あたしの目配せに気づいて、殿下も分かったらしい。腕組みをして見下ろしながら、捕虜の人に告げる。
「ならば家族の名前と、住んでる場所を言え。うちの者に言って保護させよう。
代わりにお前は組織へ戻って、偽の情報を流せ。そうだな、まずは川のほうへ逃げ延びたらしい、とでも言え」
「待ってください殿下」
予想もしなかった言葉を聞いて、慌てて止めた。
「なんだ? 不服か?」
「はい」
答えて、殿下を真っ直ぐ見る。逆らうことになるけど、言わないわけにいかなかった。
「この捕虜を逃がして帰したとして、こちらの思惑通り行動するとは限りません。最悪、殿下が生きていたと知らせる可能性があります」
そうなれば時間稼ぎどころか、更に事態が悪くなるだろう。