Episode:35
「えぇと、はい、その、出身はアヴァンシティです!」
こんなにぺらぺら喋るのはどうかと思うけど、嘘ではなさそうだ。
「シティか。といっても広いからな。北側か?」
「はい、仰るとおりで」
殿下と捕虜さんはこれで通じたみたいだけど、ふだん住んでないあたしには、何のことかよく分からなかった。
何か知らないかと、いちおうこの国に縁のある、イマドのほうを見る。
「あー、お前らじゃわかんねぇか」
視線に気づいたみたいで、彼が説明を始めた。
「シティは東の海岸沿いと、西の宮廷なんかがある側が、元からあったとこなんだよな。んで次が南の市民街。
けど北側ってのはあとから出来た、元スラム街でさ。っても、ベルデナードほどじゃねぇけどな」
「なる……」
国こそ違うけど、同じスラム出身のシーモアたちは、ぴんと来たみたいだ。
向こうじゃまだ、殿下が捕虜からいろいろ聞きだしてた。
「なぜ、こんなことをした? どう見てもお前には、向いてないように見えるが」
みんなが周りで、うんうんと頷く。あたしも同感だ。
けど答えは、意外なものだった。
「その、学校へ、行きたかったんです……」
みんなが黙り込む。冷静だったのは、殿下だけだ。
「学校へ行きたいのなら、行けばいいだろう。そもそも学校へ行くのとこの騒ぎと、何の関係がある」
問われて捕虜の人が、少しづつ話し始めた。
「それがその、何年も前なんですが、うちはお金がなくて上の学校へ行けなくて。でも俺行きたくて。
そのとき知り合いから、お金がなくても行ける学校がある、って聞いたんです」
「当たり前だろう。そのための奨学制度だ」
殿下はさらっと言ったけど、あたしたちはアヴァンの人間じゃないから、何のことかさっぱりだ。
「なんかよく分かんないけど、アヴァンって学校行くのに、お金要らないの?」
ナティエスが訊くと、殿下は気づいたみたいで、説明してくれた。
「この国は昔から、教育が盛んでな。
とはいえこの者のようなケースは、いくらでもある。だから試験をして通ったものは、高等教育を無料で受けられる制度が作られている」
「すごいな、それ」
シーモアが、心底感心したような声で言った。スラム時代はロクに学校へも通わせてもらえなかっただけあって、実感がこもってる。
「ともかくそれを使えば、一銭もかからん。まぁ試験に受からないようでは、話にならんが」
「あの、そうじゃないんです」
捕虜の人が、殿下の話を遮った。