Episode:34
あえて殺さなかったのは、情報が何か聞きだせると思ったからだ。何しろああいうタイプは、たいてい脅しに弱い。
ただ見かけと違って、頑として拒む場合もある。そうなったら、イマドの手を借りるしかなかった。
けどそれは、けして楽しいことじゃないし、それなりにリスクもあって……。
「いいって、ちゃんとやるから。つか、これも任務のうちだしな」
思わず顔を上げる。
いつものイマドが、そこに居た。
「あのヤロー、目ぇ覚ましたみてぇだぜ。行かなくていいのか?」
「うん、行かないと」
少しほっとしながら、でもそんな自分が汚くも思えて、複雑な気分で捕虜のところへ行く。
「ねーねーおじさん、なんでこんなことするのー?」
ナティエスたちがもう、尋問(?)を始めてた。
「お、おじさん?!」
「えー、だって。おじさんでしょ」
捕虜の人が、目を白黒させてる。
「オヤジでいいよ、ナティ」
「そぉ?」
本気なのかふざけてるのか、よく分からない会話だ。
「じゃーそこのおじさん、じゃなくてオヤジさん?」
「いくらなんでもそれはないだろう! 僕はこれでも、まだ22歳だぞ!」
さすがに怒ったらしい捕虜に、ナティエスが痛烈に言い返す。
「十分おじさんじゃない。それもお漏らしおじさん」
口をぱくぱくさせたまま、この人が何も言えなくなった。
「でさ、おじさん。さっきも聞いたけど、なんでこんなことしたの?」
「だから、その『おじさん』は……」
こんどはシーモアが言い返す。
「んじゃガキんちょかい? ってもションベン垂れが何言っても、説得力ないけどね」
「――!」
ここまで言われてるのを見ると、ちょっと気の毒だ。
「まぁ名前教えてくれれば、呼んでやるさ。『ションベン垂れのオヤジ』よりは、マシだろうからね」
「ゆ、ユーベル。ユーベル=ブノワ……」
思わずイマドと、顔を見合わせる。こんな簡単に名前を言わせるなんてシーモアたち、尋問の才能がありそうだ。
「それでユーベルとやら。出身はどこだ」
何を思ったのか、殿下が口を挟んできた。
「ろ、ローウェル殿下?!」
どうやらこの人、外国の傭兵じゃなくてアヴァンの国民らしい。そうじゃなかったら、こんな反応しないだろう。
「いかにもローウェルだ。だが今は、質問に答えてもらいたいものだな」
殿下の堂々とした立ち居振る舞いに、捕虜が背筋を伸ばした。もし両手が自由なら、きっとこの人敬礼してる。