表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/121

Episode:32

 炎系の精霊を従えてるあたしには、火は何の害もない。だから燃える家へ入るのも、崩れるかもしれないことを除けば、そう怖いことじゃなかった。

 けどイマドは違う。


 なのに彼は、勘違いからだったかもしれないけど、あたしを止めようと追いかけてきてくれた。炎の中まで、飛び込んできてくれた。

 あたしが前線やそれに近い場所にいるとき、シュマーじゃ誰もそんなに心配しない。心配するだけ無駄なのを、よく知ってるからだ。


 だからもし、あの時誰か一緒に居たとしても……手伝いでついてくることはあっても、止めに来たりはしなかっただろう。

 けど、彼はそうじゃなかった。どこまでも対等に、心配して怒ってくれた。


 そのあともずっと、あたしの素性を知ってそれでも、彼は対等なままだ。同じ目線で怒って、心配して、話をして、喜んでもくれる。

 イマドだけじゃない。シーモアもナティエスもだ。

 なのに、あたしは……。


 くすぶる毛布の下、石化したみんなに、また涙がこぼれる。こんなの、ふつうの人間がすることじゃない。

 けっきょくあたしは、シュマーでグレイスで、得体の知れない……。

 そんなふうにいろいろ考えていて、ふと気がつくと、火がだいぶ消えていた。もしかすると知らないうちに、少しうとうとしてたのかもしれない。


 息をひそめて、周囲の気配をさぐる。

 遠ざかったらしい火と、逃げ惑う獣の騒ぐ声。

 その中で……待つ。


「ここだったか? 丸焼けだな」

 案の定、偵察らしい人の声が、聞こえてきた。


「殿下も気の毒に。ここへ来なけりゃ、こんな目に遭わなかったのにな」

「でも、逃げてたりとか……」

 話し声と足音から、2人だろう。


「天幕は焼けちまったみたいだな。どれ、死体を捜すか。なかったら面倒だな」

 彼らが天幕の残骸へ近づいた、その隙を狙って一気に仕掛ける。


「トォーノ・センテンツァ!」

 立ち上がりながら魔法で相手をひるませ、太刀を振り下ろす。さらに反動を利用して、向きを変えて……呆れてやる気が失せた。

 若いほうの男の人、腰を抜かしてズボンを濡らしてる。

 でも偽装かもしれないから、警戒を解かずに切っ先を向けた。


「わ、わ……」

 後ずさって逃げようとするけど、腰が抜けてるから逃げられないらしい。

 なんだかもう面倒になって、目くらましに炎を放ち、その隙に背後へと回る。


「わ、え……?」

 あたしを見失ってきょろきょろしているのを、峰打ちで昏倒させた。


 ――疲れたかも。


 こういうヘンに気の弱い相手は、脱力感に襲われる。

 けど、敵は敵だ。念のために縛り上げて、その辺の焼け残った石に繋ぐ。これなら目を覚ましても、悪さは出来ないだろう。


 それから、死体のほうを片付けにかかった。といっても長時間ここを離れるわけに行かないから、魔法で軽くして持っていって、近くの窪地に放り込む。上から焼けた木や灰をかけて、見えないように偽装して完了だ。

 最後に、気の重い仕事に取り掛かった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ