Episode:32
炎系の精霊を従えてるあたしには、火は何の害もない。だから燃える家へ入るのも、崩れるかもしれないことを除けば、そう怖いことじゃなかった。
けどイマドは違う。
なのに彼は、勘違いからだったかもしれないけど、あたしを止めようと追いかけてきてくれた。炎の中まで、飛び込んできてくれた。
あたしが前線やそれに近い場所にいるとき、シュマーじゃ誰もそんなに心配しない。心配するだけ無駄なのを、よく知ってるからだ。
だからもし、あの時誰か一緒に居たとしても……手伝いでついてくることはあっても、止めに来たりはしなかっただろう。
けど、彼はそうじゃなかった。どこまでも対等に、心配して怒ってくれた。
そのあともずっと、あたしの素性を知ってそれでも、彼は対等なままだ。同じ目線で怒って、心配して、話をして、喜んでもくれる。
イマドだけじゃない。シーモアもナティエスもだ。
なのに、あたしは……。
くすぶる毛布の下、石化したみんなに、また涙がこぼれる。こんなの、ふつうの人間がすることじゃない。
けっきょくあたしは、シュマーでグレイスで、得体の知れない……。
そんなふうにいろいろ考えていて、ふと気がつくと、火がだいぶ消えていた。もしかすると知らないうちに、少しうとうとしてたのかもしれない。
息をひそめて、周囲の気配をさぐる。
遠ざかったらしい火と、逃げ惑う獣の騒ぐ声。
その中で……待つ。
「ここだったか? 丸焼けだな」
案の定、偵察らしい人の声が、聞こえてきた。
「殿下も気の毒に。ここへ来なけりゃ、こんな目に遭わなかったのにな」
「でも、逃げてたりとか……」
話し声と足音から、2人だろう。
「天幕は焼けちまったみたいだな。どれ、死体を捜すか。なかったら面倒だな」
彼らが天幕の残骸へ近づいた、その隙を狙って一気に仕掛ける。
「トォーノ・センテンツァ!」
立ち上がりながら魔法で相手をひるませ、太刀を振り下ろす。さらに反動を利用して、向きを変えて……呆れてやる気が失せた。
若いほうの男の人、腰を抜かしてズボンを濡らしてる。
でも偽装かもしれないから、警戒を解かずに切っ先を向けた。
「わ、わ……」
後ずさって逃げようとするけど、腰が抜けてるから逃げられないらしい。
なんだかもう面倒になって、目くらましに炎を放ち、その隙に背後へと回る。
「わ、え……?」
あたしを見失ってきょろきょろしているのを、峰打ちで昏倒させた。
――疲れたかも。
こういうヘンに気の弱い相手は、脱力感に襲われる。
けど、敵は敵だ。念のために縛り上げて、その辺の焼け残った石に繋ぐ。これなら目を覚ましても、悪さは出来ないだろう。
それから、死体のほうを片付けにかかった。といっても長時間ここを離れるわけに行かないから、魔法で軽くして持っていって、近くの窪地に放り込む。上から焼けた木や灰をかけて、見えないように偽装して完了だ。
最後に、気の重い仕事に取り掛かった。