Episode:29
「ルーフェもしかして、イマドのこと?」
「え、どうして……分かるの?」
あたしの疑問に、ナティエスがけらけらと笑う。
「だって。ルーフェもイマドも殿下も、分かり易すぎだもん」
「そう、なんだ……」
自分じゃ隠してたつもりだけど、丸分かりだったらしい。
ナティエスが隣へ座り込む。
「そんなに、気になる?」
「気になるっていうか……」
自分でもよく分からない。気になるのはたしかだけど、なんかもっと、重い感じだ。
そんなあたしを見てなぜか、ナティエスは笑った。
「ルーフェにも、こういうの分かるようになったんだー」
「え?」
何を言われたのか分からなくて、考え込む。
「あれ? ルーフェだって、イマドのことでしょ?」
「うん……」
またため息をついて、つい口にする。
「頼んで、悪いことしちゃった……。任務なんて、楽しくないのに」
「――え?」
こんどはナティエスが考え込む。
「ちょっと待ってルーフェ、イマドと殿下のことじゃなかったの?」
「え? それもそうだけど……こういう任務、イマド慣れてないのに、名前出しちゃったから……」
一瞬ナティエスがぽかんとして、次に吹き出した。
「なにそれっ! やだもうルーフェ、そうだったの? せっかく気にしてるから、ちょっとは分かるようになったと思ったのにー」
「え……」
どうも何か、根本的に食い違ってるらしい。
あたしの答えがよほど面白かったのか、ナティエスはまだ笑い転げてる。
「あーもう、ルーフェったらやっぱりルーフェなんだからー。
イマドには言っといてあげるね、このこと。きっと笑い出すよ」
「え? あ、うん……」
なんでこれを言うと笑うのか、見当もつかない。ただそれでも、イマドが笑うならいいかな、と思う。
「あーもう、笑いすぎてお腹痛いー。っていうか、止まんないー」
ナティエスは楽しそうだけど、なんだか複雑な気分で立ち上がる。そろそろ夕暮れ、天幕の中じゃ夕食を並べ始めてるだろう。
そのとき初めて、あたしは異変に気づいた。
――異臭。
辺りを見回して、走り出す。
「ルーフェ?!」
「来ないで!」
ナティエスにそう言って、あたしは歩を進めた。
いくらも行かないうちに、いやな予感が現実になる。かすかに感じる熱気と、強くなるキナ臭さ。
「ルーフェー、ねぇどしたのー?」
「火が……」
瞬間、ナティエスの表情が引きつった。