Episode:28
◇Rufeir
既にここへ来て4日目、途中で持参の食料がなくなったものの、あとの天幕暮らしは順調だった。そろそろ夕方だから、今晩さえ乗り切ればどうにかなるはずだ。
――乗り切れれば、だけど。
相手の意図が殿下の継承権阻止だとしたら、このままってことはないだろう。明日までに何かあるはずだ。
他のみんなは気づいてるかどうか分からないけど……あたしは最悪、殿下の暗殺もあるだろうと思ってた。
それを、どう阻止するか。
はっきり言って、分が悪い。向こうはそれなりの人がそれなりの人数で組織だってやってるのに対して――それにしては人形とか、ちょっと笑えるけど――こっちはあくまでも「見習い」だ。戦力差は歴然としてる。
いちばんいいのは、さっさとこの儀式を中止して撤退、収拾がついてから再度来ることだろう。
でもそれは、出来ないんだっていう。この儀式に挑戦できるのは1人1回だけで、それでクリアできなければ、終わりなんだそうだ。
人も居ないし、取れる戦法も限られてて、やりようがない。結局出来ることといえば、みんなでなるべく固まって警戒するくらいだった。
殿下はいま、天幕の中だ。こういう状況の以上、とてもじゃないけど外へなんか出せない。
ただ殿下、今回は文句も言わずに従ってくれて、その分だけは楽だった。もし前回みたいに好き勝手にされたら、さすがに守りきれない。
中の様子は、ここからは分からなかった。
殿下とイマドは、あんまり仲がよさそうには見えない。だから上手くやれているかどうか、ちょっと心配だ。
一緒にシーモアがいるから、どうにかしてくれるとは思うけど……。
ため息をつく。
殿下のことも気がかりだけど、もっと気にかかるのイマドだ。
いつも飄々と笑ってる彼が、ここへ来てからあまり笑わない。厳しい表情で、考え込んでばかりいる。
もしかしたら、あたしが今まで気づかなかっただけかもしれないけど……こんな彼は、初めてだ。
ここへ来てもらったのが、間違いだったのかもしれないと、後悔していた。
誤解してる人も多いけど、任務なんてどれも、楽しいものじゃない。だいたいが嫌なことの連続で、そのくせ要求は無駄に高くて、それをどうにかするようなことばかりだ。
でもイマドは、たぶんその辺は知らないはずで……殿下とそりが合わないのもあって、ストレスになってるんだろう。
こうなってみて初めて、ふだんどれだけイマドに励まされていたか、やっと分かる。それで何かが変わるわけじゃないけど、「気にするな」と言われるだけで、いつも気が軽くなっていた。
それなのに、あたしは……。
「ルーフェ、どしたの?」
いきなり声をかけられて、心臓が跳ね上がる。
「ナ、ナティエス?」
「やだルーフェ、ほんとどしたの? そんなにびっくりして」
振り向くとすぐ後ろに、戻ってきたナティエスが居た。こんなに近づかれるまで気づかないなんて、前線だったら間違いなく死んでる。
気になることが多すぎるのは確かだけど、それで任務に支障が出るなんて、失格もいいところだ。