Episode:26
「けど、このままじゃ」
「絶対近寄らないで!」
厳しい口調。そして彼女が、呪文を唱える。
「エレメンタル・ブレスっ!」
例の、無敵防壁魔法。でもあたしたちにはかかってない。
続けてルーフェ、わりと普通の防御魔法。この連発に、シーモアが不思議そうに訊いて。
「……今度は何にかけたんだい?」
「箱と、天幕。このまま、近づかないで」
答えを聞いて、さすがにぞっとしたの。だってもし、ルーフェの予想が正しかったら……。
「は、離れなくて大丈夫?」
「あ、うん、念のために離れたほうがいいかも」
ルーフェは平然としてるけど、さすがに怖くなって、殿下を連れて歩き出して。
その背中で、爆発が起こった。
「……ちきしょー、これじゃまるっきり食えねぇだろ」
イマドの恨み言。いつの間にかルーフェの隣来て、仲良く見てたみたい。で、あたしたちも振り返って――また背筋が寒くなる。
さっきは横倒しになっただけの冷気箱が、中がズタズタになってた。
外殻が裂けてないのは、きっとルーフェが魔法かけたから。もしそうじゃなかったら、破片になって飛び散ってる。
で、あたしたち、その冷気箱に近づこうとしてたわけで……。
「どうして、分かったの?」
「殿下に呼ばれるまでは、異常なかったし……仕掛けられた割に、最初の被害小さかったし」
ルーフェはこともなげに言うけど、たったそれだけで察知するなんて、やっぱりこの子って場数踏みすぎ。
「あと、あたしも……仕掛ける側なら、同じことするから……」
続いた物騒な言葉に、思わず凍りつく。こういうのが分かるって、つまりそういうのが「出来る」ことだって、今まで結びつかなかった。
華奢で泣き虫のルーフェの、もうひとつの顔。それを見せられた気分。
ただいつも一緒にいるイマドは、気にならなかったみたいで。
「まー、テロ屋の常套手段だしな。様子見だの救助に人が集まったとこ狙って、もっかいドカンってのは」
「そういえば、そうだっけ……」
学院ってああいうところだから、そういう話どこかで聞いた気はする。でもそれがこの場ですぐ思い浮かぶって、やっぱり並みじゃない。
ともかく止めてくれなかったら、あたしたち食料の様子見に冷気箱に近づいて、今頃食料と仲良く生肉だったはず。
「イマド、残りの食料……どのくらい?」
「昼飯と、あと夕飯の分は出してあるから、今日は平気だな。ほかに携行食もあるし、お前が釣った魚もあっから、まーどうにかなるだろ」
すくんじゃったあたしたちと違って、向こうはまるで日常会話。このまま買い物にでも行きそう。
「魚、いちおう泥吐かせたほうがいいかもな。あとで生簀でも作っとくわ」
「じゃあ石化解くとき……呼んで」
やけにのんびりした会話のあと、ルーフェがこっちへ向き直った。