Episode:21
「昨日のこともあったからね、武器持って外へ出てみたら、こんなものがあったのさ」
差し出されたものを見て、俺ら首をかしげた。
「これ、人形……?」
ルーフェイアの言うとおりだ。ただ人形っても、魔法で動くヤツじゃない。子どもが持ってたりする、布地で作ったごくふつうのヤツだった。
――傷がついてることを、除けば。
何体分かあるそれは、どれも胸の辺りが切り裂かれてて、髪の色なんかが俺らと似てる。
「ったく、何のつもりなんだか」
「だから、やっぱり嫌がらせじゃない?」
今まで何度か同じ話でも、してたんだろう。ナティエスのヤツ、ほとんど断言口調だ。
「じゃなかったら、ここまで丁寧にやらないもん」
「まぁたしかに、こんだけの人形作るだけでも、それなりに手間かかっちゃいるはずだしね」
たしかにたかが人形ったって、わざわざ似せるとなったら、探すなり作るなりするハメになる。ご丁寧にそれやってんだから、なんかそーゆー意図があるのは間違いねぇだろう。
「けど……嫌がらせって、どうして……?」
「つかその前に、こんなことすんの誰だよ」
ルーフェイアのヤツと違って、俺はこっちのほうが気にかかる。こんな辺鄙な場所まで来て嫌がらせとか、かなりイってる行動だ。
「連中、だろうな」
俺の言葉に、それまで考え込んでた殿下が、顔上げて答えた。
「連中?」
一斉に上がった声に、殿下が話し出す。
「去年の騒ぎは……お前たちはだいたい、内容は知っているだろう?」
「知ってるっていうか、思いっきり巻き込まれたしね」
騒ぎってのは、去年のテロと誘拐のことだろう。
俺も全部じゃないけど、話はルーフェイアのヤツから聞いてた。なんでもここの公爵家の跡目争いで、ドタバタになったっていう。
「けどその首謀者、捕まったって俺聞きましたけど?」
俺の聞き覚えを、殿下が否定した。
「つかまってはいないな。重傷を負ったあと、館に軟禁されている」
「へぇ……」
やっぱ一般人と違って、こういう連中はいろいろ特典があるっぽい。
俺の視線に気づいたのか、殿下が苦笑した。
「言いたいことは分からなくもないが、まさか公爵家から、国家反逆罪を出すわけにもいかないしな」
殿下はそう言ってっけど、シーモアとナティエスの表情も冷たい。あいつらも、「とっとと処分しろ」と思ってんだろう。
ただ、ここで話したって結論が出るわけでもねぇし。殿下も分かってんだろう、ちょっと困った顔ながら続ける。