Episode:02
「ふふ、可愛いわよね、そういうとこ。あとで遊んであげるから、待ってなさいね」
「ダメですってばっ!! それより先輩、話っ!」
ロア先輩が焦ったふうに、いきなり話題を変える。
「まったく、先輩に向かって生意気ね。
まぁいいわ、先に用を済まさなきゃいけないのは、たしかだものね」
言ってイオニア先輩が、あたしの顎に手をかけて上を向かせた。
「子猫ちゃん、アヴァン公国は分かるわね?」
「え? あ、はい、この国の首都の、イグニールから海越えてすぐの、アヴァンですよね?」
他に聞いたことがないから、たぶんそうだろう。
「そう、そのアヴァン。じゃぁ、そこの公爵家のことは知ってるかしら?」
「えっと……」
記憶をたどって思い出す。
アヴァンは公国で、治めているのは公王を筆頭とする公爵家だったはずだ。
「たしか最年長のアドルファス=クレメント=ド=ファレル卿が現公国王で……第一継承者が、息子のエイヴリー=ホルスナー=ド=ファレル卿……?」
みんな名前が長いから、ちょっと記憶があやふやだ。
「さすが学年主席、よく出来たわね。でも今回関係があるのは、継承権第二位のローウェル殿下のほう」
殿下といえば、去年護衛したあの殿下だ。
――でも、なんでだろう?
今年の建国祭はもう終わってるし、なんの関係があるのか見当もつかない。
「話が見えなかった? まぁこれは仕方ないかしら」
「すみません……」
謝りながらつい下を向こうとしたけど、先輩の指が顎にかかっていて、下を向けない。
なんだか辛くて視線をそらす。と、先輩が顔をあたしに近づけた。
「……!」
「先輩、なにしてんですかっ!!」
ロア先輩の怒声。
「額にキスくらいで、よくもそんなに騒げるわね」
「そういう問題じゃないです!」
あたしの頭越しに、言い合いが始まる。
「ともかくルーフェに、ヘンなこと教えないでください! この子ちゃんと、カレシもいるんですから!」
「あら、そうなの。小さいのに案外しっかりしてるじゃない」
あたしのことみたいだけど、内容がよく分からない。
首をかしげてると、イオニア先輩があたしの頭をまたなでて、話し出した。
「さて、遊びはこの辺で終わりね。
ルーフェイア、さっきの話の続きだけど、あなたに 殿下から名指しで依頼が来たわ」
「あたしに、ですか?」
ますます分からなくなる。建国祭なら去年のことがあるから、「今年も」というのもあり得るだろう。でももう終わってしまったから、呼ばれる理由はなかった。
「そう、あなたによ。何でも向こうで儀式とやらがあって、それの護衛をしろって来たわ」
「え……」
どうやらまた、前回と似たような話らしい。
――ちょっと、嫌かも。
殿下はけっこう好き勝手をするから、危険を呼び込んで困る。
「それで事前にエレニアとシルファ、それにロアから、あなたのことを聞き取り調査させてもらったところよ」
この言葉でロア先輩がここに居るわけが、やっと分かった。呼び出されて、ふだんのことなんかを聞かれてたんだろう。