Episode:19
◇Imad
「……ホントに地図どおりってヤツだな」
「うん」
二日目、俺とルーフェイアは、野営の候補地探ししてた。っても、探し回ったワケじゃなくて、単に「確かめ」ただけだ。
殿下が言うにゃ代々、この谷の地図が受け継がれてんだって言う。んでそれ広げてみたら、ちゃんと洞窟まで描かれてた。
ただ鵜呑みにするわけにもいかねーから、俺らが確かめに来た、って次第だ。
洞窟は川を遡ってきた辺りで、ちっと小高いところにあった。中も乾いてっから、数日住むくらいならだいじょぶだろう。
それなりに距離があるから、荷物運ぶの大変って気はするけど、不可能ってほどじゃねぇし。
まぁ「あと2~3日なのに移るのか」っていう、根本的な問題はあるけど……。
けど前線育ちのルーフェイアのカンは、無視できない。こいつが「なんかある」ったら、ぜったいに準備したほうがよかった。
「急いで戻って、なるたけ今日中に移るか」
「そうだね」
夜の移動は願い下げだから、とっとと洞窟をあとにする。
「荷物軽くして、川沿い来んのが楽そうだな」
「うん」
答えながらルーフェイアのやつ、ちっと上の空だ。視線が川の中へ行ってる。
見てんのは……魚だろう。
――悔しかった。
魚釣ってたときの、ルーフェイアのヤツの笑顔。あんなに心底楽しそうにしてんのは、俺でも見たことない。
そのことに、めちゃくちゃイラついてる自分が居た。
ルーフェイアが喜んでたのが、ヤなワケじゃない。それを自分じゃ出来なかったことに、腹が立ってた。
学院へ来る前も来てからも、あいつの表情はどっか諦めた寂しそうなもので、楽しんで笑ってるってことがない。
根本にあるのは、シュマーのことだろう。あいつは片時も、そのことを忘れたりしない。けどあの笑顔で魚釣ってたときだけは、忘れてたはずだ。それがすげぇ悔しかった。
イライラしながら、そんでも必死に出さないようにして、言う。
「ほら、早く帰ろうぜ。日が暮れちまう」
「ご、ごめん……」
敏感なルーフェイアのヤツが、ちょっとだけ怯えた表情になった。情けねぇけど、隠し通せなかったらしい。
「あー、だからさ、そゆんじゃなくて……」
自分で言いかけたクセに、言葉が上手くつながらない。それでもどうにか口開きかけたとき、一気にルーフェイアの表情が変わった。
俺も同時に、魔力の気配を捉える。
呪文じゃない。もっと漠然とした、結界とかそういうたぐいだ。それが、真上にある。しかもそうとうデカい。
ルーフェイアのヤツが太刀の鞘を、ほんの少しずらす。
瞬間、笑うような気配がして、空から何か降ってきた。目の前でべしゃっと音を立てて、つぶれて飛び散る。
「なんだ……?」
自分で言いながらも、だいたいの見当はつく。なんかの死体だ。ただ地面に叩きつけられてっから、あんまり見たくないモノになってる。
頭の上の気配は、これに気を取られてる間に消えてた。
「動物……?」
平然とルーフェイアのヤツが近寄った。んで、その辺の花でも見るみたいに覗き込む。




