Episode:16
「来たぞ、上げろっ!」
「え? えっ?!」
何をどうすればいいのか、まったく分からない。
「竿を上げて、糸を巻けっ!」
「は、はい!」
ぴん、と糸が張って、すごい力で引っ張られる。気を抜いたら、川へ落ちてしまいそうだ。
「慌てるな。落ち着いて、竿を動きに合わせながら巻くんだ」
「はい……」
殿下の言うとおり合わせながら、糸を巻いていく。魚のほうも必死だから、まるで力比べだ。
けどそのうち、引きが弱くなった。魚のほうがあたしより先に、参ってきたらしい。
「よし、悪いが竿を貸してくれ。網がないから、僕が上げよう」
「あ、はい、どうぞ」
手渡すと殿下は慣れた手つきで糸を巻いて、それから上手く反動を利用して釣り上げた。
片手じゃとてもつかめないような魚が、ばたばたと草の上で暴れる。
「うん、まあまあだな」
殿下が満足そうだ。
「これ……食べられますか?」
「ああ。臭みがあるが、この辺は水が綺麗だからな。そんなに気にならないだろう」
どうやら晩御飯が出来たらしい。
「――そうか、生簀を作って泳がせておかないとダメだな。ヘタに殺すと不味くなる」
「そうなんですか? そしたら……」
魚に向かって集中する。
「地の礎にして万物の素なる物、うつろわぬ力をここに現せ――ピエトラ・フィアート!」
思惑通り、魚の石像が出来た。
「……何をした?」
「あ、えっと、魔法で石化させました。これだと、解けば生きた状態なので」
殿下が呆れた顔になる。
「まったく、こういうのは初めて見たな」
「すみません……」
慌てて謝ると、殿下が「もういい」というように、ひらひら手を振った。
「気にするな。間違ってるわけでもないからな。
ともかく次を探そう。パンをちぎって投げてみて、食べたやつを釣るんだ」
「はい」
分けてもらったパンを手に、川沿いを歩き回っては水の中を覗き込む。
「あ……」
さっきと同じ魚を見つけて、パンを投げてみた。
魚が水面へ上がってきて、ぱくりとひと飲みにする。
「殿下!」
「いたか?」
呼ぶと殿下はすぐ来てくれて、さっきと同じように餌をつけて、竿を渡してくれた。
「今度は、上げ方も教えてやる」
「はい♪」
同じように投げて、魚が針に食いついて引いて……。
――楽しい。
ただ単純に、面白かった。こんなふうに遊んだことは、もしかしたら初めてかもしれない。




