Episode:15
「ダメ……ですか?」
「ダメだ」
もういちど言われて、さすがに諦める。雇い主の殿下に、逆らうわけにはいかない。
仕方なく、そのまま元の場所に座りなおした。
「……どうしてそこで、言われたとおり座るんだ」
「え?」
言ってることがメチャクチャだ。
「でも殿下、そう言いましたし……それに殿下、雇い主ですから……」
殿下があからさまに、落胆した顔になる。
「あの、何か……?」
「いや、いい。
――しかしヒマだな」
たしかに殿下の言うとおりだった。イマドたちが帰るまで待つだけで、ここには魔視鏡も本もないから、時間を潰すのに困る。
「えっと、そしたら……釣りとか、しますか?」
少し向こうの小川でなら、遊ぶ程度には釣れるだろう。
「道具があるのか?」
「あ、はい。装備の中に、入れてもらいました」
イオニア先輩がチェックしてるときに、万が一のサバイバルを考えて入れてもらったのが、さっそく役に立ちそうだ。
荷物の中を漁って、釣り竿を探し出す。
「ふむ、悪くないな……ちょっと見てくる」
小川へ向かった殿下の後ろを、あたしもなんとなくついて行った。
「釣りはしたことがあるか?」
「いえ、あんまり……」
部隊の中には好きな人もいたけど、あたしはほとんどやったことがない。敗走中に川で魚を獲ったりもしたけど、のんびり釣り糸を垂れるヒマはなかった。
「そうか。案外面白いぞ。
――ほう、こんな場所なのにアイツがいるな。パンを持ってこよう」
「あ、じゃぁあたしが」
急いで食料の中から、硬そうなパンを取り出す。殿下はあたしと違って、釣りが趣味みたいだ。
川辺へ戻ると、殿下が水の中を覗き込んでいた。
「いいか、そこに大きめの魚がいるだろう?」
指差す先に視線をやると、たしかに黒っぽい大き目の魚が居る。
「あれに、このパンを投げてみろ」
「あ、はい」
小さくパンをちぎって、言われたとおり投げてみる。
「……え?」
驚いたことに、その魚が上を見た。パンを狙って……ひと口で飲み込む。
「よし、あいつは行けるな」
言いながら殿下は針にパンをつけて、あたしに竿を差し出した。
「投げてみろ」
「え? でも、あの、あたしは……」
何を投げるのかさえ分からない。
「あぁそうか、やったことがないんだったな。いいか、まずここに指をかけて……」
あたしの持った釣り竿に、殿下が手を添える。
「こうして竿を上に上げたら、指を離しながら一気に振り下ろす。反動で、仕掛けを投げるんだ」
「あ、太刀の兜割と同じ要領ですね」
動き自体は結構似てる。
「いや、まぁ、そうかもしれないが……ともかくやってみろ。上流の方へ投げれば、あとは自然に流れるからな」
「はい」
最初は失敗したけど、何回かやるうちにコツが掴めてきて、上手く仕掛けが飛んだ。
ぽちゃんと音を立てて、針とパンとが流れていく。