Episode:14
「ルーフェ?」
問いには答えず、走り出す。
――やっぱり何か、居る。
けど駆けこんだ天幕の裏には、何もいなかった。そばの草むらが踏み荒らされてるだけだ。
もう気配もなくて、静かな谷だけが広がってる。
「何があった?」
「ごめん、分からない……」
イマドの問いにも、あたしは答えられなかった。たしかに何かが居たのだけど、それが何か分からない。
「これ見る限り、なんか居たのはたしかだね」
「けっこう大型じゃない? こんなに踏み荒らすの、ちいさい動物じゃムリだもん」
シーモアとナティエスが、地面を調べながら言う。
「……場所、変えたほうがいいんじゃねぇか?」
「いま天幕、張ったのに? だいいちどこ行くの?」
ナティエスの言うことももっともで、どうしようかとみんなで頭を悩ませた。
「そしたらさ、ともかく今晩だけは予定通り、火焚いて様子見るのはどうだろうね。念のために、見張り立ててさ」
「それで……いいかも」
どこかもっと安全な場所に移ったほうが、いいのはたしかだ。でもその場所はこれから探さなくちゃならないし、そのあとさらに移るとしたら、暗くなっても終わらないだろう。
とりあえずは様子を見て、明日から動き出すのが妥当だ。
「お昼食べたし、枯れ枝、集めなくちゃね」
「だな。ルーフェイア、お前ここに殿下と残ってろ。俺ら探してくるわ」
言って早速、イマドたちが準備を始める。
「僕は何をすればいい?」
「殿下はおとなしく座っててね。どっか行っちゃダメですよ」
ナティエスに言われて殿下、すごくイヤそうな顔だ。
――あたしも同じ考えだけど。
学院で訓練を受けているみんなならともかく、王宮育ちの殿下じゃ、出歩かれたらたまらない。
「急いで行ってくるからさ。ルーフェ、殿下頼んだよ」
「うん、だいじょうぶ」
答えながら三人を見送って、殿下と2人だけになる。
これといってすることもないから天幕に結界だけ張って、あとは見張りを兼ねて草の上に座ってると、殿下が隣へ来た。
静かな時間。かすかなせせらぎと、鳥の声だけだ。
「彼らはいつごろ、戻ってくる?」
殿下が思い出したふうに訊いた。
「え? えっと……日が傾く頃には、間違いないです」
それ以上かかったら、枯れ枝を集める意味がないし、なにより危険だ。
「その間、僕らは何もしなくていいのか?」
「はい」
ほんとうは食事の下ごしらえでも出来ればいいのだけど……あたしがそんなことしたら、かえって迷惑かけるだろう。
「しかしこういうのも、困るな」
「えっと、じゃぁ……あ、勉強とか」
殿下が怪訝な顔になる。
「こんなところへ来てまで、勉強するのか?」
「いえ、あの、そうじゃなくて……学院、テスト前なんです……」
予定だと、帰った直後にテストだから、ヒマを見つけて勉強しないとダメだろう。
「たしか、荷物の中に……」
「ダメだ。ここに座っていろ」
取りに行こうとしたら、殿下に止められた。