Episode:12
「お前ら、突っ立ってねーで押せって」
「あ、ごめんごめん」
慌ててみんなで後ろへ回って、押す。
「けど殿下、どこへ持ってきゃいいんだい?」
「あぁすまん、こっちだ」
シーモアの問いに殿下が先頭に立って、谷へと入っていった。
――それにしても。
イマドがなんだか面白くなさそうなのが、ちょっと気がかりだ。彼はいつも楽しそうで前向きで、こういうことは珍しい。
あとで理由を聞いてみようかと思いながら、みんなと一緒に荷物を運ぶ。
どこまで行くんだろうと思いながらついていったけど、幸いそんなに行かないうちに殿下が止まった。
「この辺りで野営できると思うんだが、どうだ?」
言われて辺りを見回す。
谷と言うけど、この辺は割と広い。左右の崖はけっこう遠くて、開けた野原になっている。小高いところもあるし、低いところは川が流れていて、水や寝る場所に問題はなさそうだ。
本当はもう少し、身を隠すところがあるといいのだけど、前線に居るわけじゃないから大丈夫だろう。
「悪くないと……思います」
何があるか分からないから、ベストとは答えられないけど、おおむねいい選択だろう。
「だね。大嵐でも来なきゃ、平気だと思うよ」
キャンプ場所が決まって、みんなで荷物を降ろし始める。
「っと、これ重いな」
イマドが大き目の荷物――体格がいいから率先してそういうのを持ってる――を手に、つぶやいた。
「あ、ちょっと待って……セレスティアル・レイメントっ」
威力を小さくして、呪文をかける。荷車は浮遊石がつけてあるから楽だけど、個々の荷物についているわけじゃないから、こうしないとけっこう重い。
「サンキュー、この魔法、マジで便利だな」
「うん」
イマドが喜ぶのを見て、なんだか嬉しくなる。
「ほう、軽いのか? ならこれも頼む」
話を聞いてた殿下が、イマドの荷物の上に、自分が持っていた物を置いた。
「殿下っ!」
思わず声を荒げてしまったあたしの隣で、急に変わった重さについていけなかったみたいで、イマドがよろける。
「魔法で重さを変えているときは、物を載せないでください! 解けて危険です!」
「そ、そうなのか? それは悪かった」
慌てて謝る殿下に、あたしは自分が何をしたのか、やっと気づいた。
「え、あ、その、えっと、すみません……あたし、失礼なこと……」
よく考えてみれば、魔法に慣れていない殿下が、知らないのはあたりまえだ。それどころか珍しい魔法だから、学院生だって知らないかもしれない。
なのにいきなりあんな言い方をするなんて、あたしもどうかしてる。
けど殿下、寛容だった。
「いや、いい。僕も不注意だった」
ゆくゆくは上に立つ人だから、いちいち腹を立てたりしないんだろう。やっぱり小さい頃から、そういう教育を受けているだけのことはある。
「あの、すみません、いますぐ……そちらにも、かけますから」
「すまないな、頼む」
重そうな荷物に次々と魔法をかけて、使い良さそうな位置に置いて天幕を張って――ぜんぶ終わった頃には、日は中天に高く昇ってた。