Episode:119
「もともとハニアは、そんなに人口は多くなかったわ。そこへ政治へ参加できるようになったロデスティオ人が、大量に流入。さらに報道を握られて煽られて、みんな浮かれ頭よ。共生を合言葉に、どんどん受け入れたわ」
「うわぁ……ホントに浮かれ頭」
ナティエスの言葉は、居合わせたみんなの気持ちを代弁してたと思う。
先輩もため息をついた。
「どうして気づかなかったのかしらね? ともかく分かったときには手遅れ。ロデスティオ人への差別をやめさせるって口実で、向こうの軍が一気に雪崩れ込んできたわ。加えて国内へ流入してたロデスティオ人も、一緒に武装蜂起。
しかも止めようにも、とっくの昔に流入した外国人の手で『他国人への排斥禁止』の法案が通されてて、取り締まることさえ出来なかったのよ」
なんというか、絵に描いたような国家乗っ取りだ。
「……あんまアホっぽすぎて、ちと信じらんないんですけど」
「私も自分で言ってて、そう思うわよ」
イオニア先輩も盛大なため息をつく。
「で、それが今のアヴァンと、酷似していると言うわけか」
「ええ」
殿下に聞かれて、先輩が肯定する。
「報道を押さえられて、国外へ内通してる者が居て、手引きをしてて。しかも国民のほとんどは、それを知らずに報道の言うがまま。そっくりよ」
今度は殿下が、盛大なため息をついた。
「正直、頭が痛いぞ」
「でしょうね」
同じ目に遭った先輩は、よく分かるんだろう。ちょっと肩をすくめてみせる。
「ただ、アヴァンのほうがまだマシだわ。外国人がそんなに流入していないし、政治にも関われない。最後のチャンスね」
「で、僕に竜を得るよう、けしかけたわけか」
「そういうこと」
悪びれもせず、先輩が言った。
「まったく。もし僕が死んだら、どうするつもりだったんだ?」
「さぁ? でもあのままなら、革命かクーデターでしょう。そうなれば公爵家なんて、漏れなく処刑よ」
さらりと先輩、怖い事実を指摘する。
「どうせ行き着く先が同じなら、出来る限りあがく。似たようなこと、殿下も言ってなかったかしらね?」
「言ったかもしらんな」
殿下がとぼけてるのは、認めるのが恥ずかしいからだろうか?
「まぁいずれにせよ、時間は稼げた。礼を言うぞ。世論もだいぶ変えられたしな」
「あら殿下、お礼を言うのは早いかもしれなくてよ? もしかしたら竜を得たこと、心の底から後悔する日がくるかもしれないし」
イオニア先輩、ほんとに意地が悪い。