Episode:118
「私、ハニアの出身なのよ」
「あ……」
ロデスティオに隣接する小国、ハニア。山岳地帯を領土とする少数種族の、独自の文化を持つ国だった。
過去形なのは、もう存在しないからだ。
たぶん10年くらい前だったと思うけど、ロデスティオが突、ハニアに突然侵攻した。そしてそのまま、併合されてしまったのだ。
「ハニアはね、温厚な国だった。平和主義で、中立国とも称してたわ」
「そんな立派な国、あるんですねー」
感心したみたいにナティエスが言う。彼女は独裁大統領の居る、騒乱続きでのロデスティオ出身だから、憧れるんだろう。
けど先輩の表情は、硬かった。
「立派じゃないわよ」
吐き捨てるように言う。
「ちっとも立派じゃないわ。隣から狙われてるのにも気づかず、平和平和と呪文みたいに唱えて共生外交とやらをやらかして、ロデスティオ人を招き入れたんだから!」
「え……」
隣国と協調は大切だけど、警戒は最大限に。外交の鉄則だ。
理由は簡単で、どこの国だって「自国の利益」を最優先に考えるからだ。だから一見協調してても水面下じゃ、常に利益の奪い合いが発生する。片手で握手して片手で殴り合いとか、笑顔で談笑してテーブルの下で足の踏み合いとか、言われる所以だ。
なのにそこで、1国だけのんびりと構えていたら……それはただの生贄だろう。
「平和は大事よ。共生もいいわ。でもね、国を滅ぼしてまですることじゃないでしょう!」
先輩の言葉は激しい。
「独自路線を行くんだと言って、大国エバスとの同盟を解消して。武器があるから攻められるんだと言って、軍備を削減して。挙句に他国人を招き入れて、政治にまで参加させたわ。
どうなったと思う?」
聞かれるまでもない。そんなの、「占領してください」と言うようなものだ。
「よく分からんけど、政治って違う国の人間にさせていいのかい? なんかヤバそうじゃないか」
「んー、ダメじゃないかなぁ」
シーモアとナティエスがそんなことを言う。
「つかンなことしたら、よその国の人間に都合いいように、やられるだけだろ」
「だよねぇ」
やりとりを聞いて、先輩がうなずいた。
「さすが学院生ね。そのとおりよ」
あたしたちの上に、視線が注がれる。