Episode:117
「そういえば、ミル……乗ってなかった?」
谷で竜を従えた直後、ミルときたら竜の尻尾につかまって、殿下と一緒にシティへ向かったはずだ。で、そのあと無事だったんだから、落ちたりしないで着いたんだろう。
それに聞いた話じゃ、殿下と一緒に広場に降りた後、襲ってきた暴漢を叩きのめしたっても言う。
「このままじゃ、ミルが婚約者ってことに……ならない?」
さっきの話どおりなら、見た人はみんなそう思うはずだ。
でもミルは、にこにこと笑ったままだった。
「ん、たぶんだいじょぶ。ほら、いちおう殿下守ったから、護衛ってことになってるし」
「そうなんだ……」
殿下が大変な目に遭ったのは知られてるから、その辺で納得してるのかもしれない。
「ただほら、報道うるさくてー。だからあたし、別ルートであいつら振り切ってから、シエラ帰るね」
「あ、うん」
やっぱりいろいろ、あるみたいだ。けどミルなら大丈夫だろう。
「そしたらあの、竜……」
言いかけたところで、また別の声が重なる。
「にしても殿下、あなたホントにやれて?」
「どういう意味だ」
返されて、イオニア先輩が傲然と言い放った。
「継承権なんか得て、ちゃんとまともに政治に関われるのか?ってこと。世間知らずのお坊ちゃまなんて、現実には邪魔なだけだわ」
「手厳しいな」
意外にも殿下は、笑っただけだった。前ならきっと激怒してただろうから、ずいぶんな変わりようだ。
「未来のことなんて、正直分からん。だが僕がブレなければ、そうは間違うまい。それより――」
殿下がまっすぐ、イオニア先輩を見る。
「お前こそなぜ、僕に手を貸した? 『面白そうだった』と先日は言っていたが、とてもそうとは思えんぞ」
今度はイオニア先輩が笑った。
「殿下の目、案外見えたってことかしら?」
「そのくらい、分からんようではやって行けん。で、何故だ? 本当の理由を聞かせてほしいのだが」
少し考え込んでから、先輩が言う。
「そうね。殿下には教えてあげてもいいかしら? 知っておいたほうが、いいことでしょうし」
どこか寂しさを感じさせる声だ。