Episode:116
「いいとは……何がだ」
「えー、だって。竜に女の子乗せるって、『自分のもの』って意味じゃないー」
ミルの言葉に、わっとみんなが騒ぎ出す。
「やだぁ殿下、そーゆー下心だったんだ?」
「姑息だね。そんな不意打ち食らわすくらいなら、正々堂々と言ったらどうだい」
よく分からないけど、殿下が悪いみたいだ。
でもなぜそうなるのかは、今ひとつ分からなかった。
「いい、ルーフェ。この国じゃ竜って、権力の象徴だよね?」
「あ、うん」
考え込むあたしに、ミルが説明を始める。
「でね、それに乗せるってことは、『こいつの後ろには、竜と王が付いてるぞ』って意味になっちゃうわけ」
「あ、たしかに……」
意味は通る。
不審な人間を後ろに乗せるなんてしないから、一緒に乗るってことはイコール、近しくて信頼できる人と考えていい。
そこから派生して、竜に乗せてもらうことが、権力のおすそ分けに繋がるんだろう。
「けど……なんで、自分のもの?」
みんなが一瞬言葉を失った。
「まぁ子猫ちゃんじゃ、仕方ないかしらね?」
イオニア先輩が笑いながら言う。
「とりあえずこの国じゃ、竜に異性を乗せるってことはつまり、婚約者に近い意味になる、とでも覚えておけばいいわ」
「え……」
さすがにそれは困る。
「あの、殿下、あたしそういうのは、えっと、ちょっと……」
「いや待て誤解するな、僕にも許婚くらいいるぞ! だからそういう意味じゃない!」
「――えっ?」
再びみんなが、言葉を失った。
「いいなずけ……って、婚約者っ?!」
「うそぉ、殿下もうそういう人居たんだっ!」
「いったい誰なの、その玉の輿は!」
大騒ぎだ。
「機会があったら、ちゃんと会わせてやる。ともかくそういうことだ、別に乗せたからって、そういうつもりはないぞ!」
たぶん殿下、言い訳してるんだろうと思う。
どっちにしても、今回は婚約者とか、そういう意味はなかったみたいだ。
――だったら、ちょっとくらいいいかな?
そんなふうに思ってから、気づく。